鈴鹿8耐4連覇の立役者:中須賀克行。悔しさが5連覇へのモチベーション

2018/08/23

 

中須賀克行の決勝レース欠場

2018年鈴鹿8時間耐久ロードレース第41回大会はYAMAHA FACTORY RACING TEAMが史上初の4年連続優勝の快挙で幕を閉じた。決勝レースのコース上にチームのエース:中須賀克行の姿はなかった。

土曜日、トップ10トライアル前のフリー走行でまさかの転倒、右肩を負傷する。「100%のパフォーマンスを発揮できない」との理由により決勝レース欠場を決めた。

中須賀は決勝レース中、ついにピットボックスに姿を現さなかった。しかしゴールの直前、マイケル・ファン・デル・マークと共につなぎ姿で出てきてピットウォールによじ登る。ゴールの瞬間、マイケルと抱き合い勝利を噛みしめた。

自分から「走らない」と言うのは悔しいから

土曜日の午後、衝撃的な映像がモニターに映し出された。中須賀がコース脇に倒れてうずくまっていたのである。ペースの遅いマシンを避けようとしてハイサイド。「あの場所にいた自分の責任」と言う。右肩を強打しその後のトップ10トライアルを欠場。中須賀がどんなタイムを出すか、みなが注目していただけに会場内が落胆した。「中須賀は走れるのか?」話題はそこに集中したが決勝レースを欠場した。

「チームが勝つという最重要目標達成のために中須賀は走らない方良い」という結論をチームが出した。イヤ、出してもらった」と中須賀。

「自分から「走らない」と言うのは悔しいから」

中須賀ほどのライダーである。決勝レースを走れない、その悔しさがいかほどであったか、想像に難くない。

二人のライダーを懸命にサポート

中須賀は決勝レース中、ライダーのバックアップを行っていた。チームにはヘルパーと呼ばれるライダーのお世話をするスタッフがいる。次の走行まで1時間しかない中で本当に身体を休ませられるのはほんの僅か。少しでも疲労回復できるように、時間を効率的に使えるように、ヘルパーさんたちは奮闘する。

ライダーの気持ちを知り尽くしている中須賀がモニターを見ながら「今、これを欲しいと思うから準備して」とヘルパーさんたちにアドバイスを出す。

また、ライダーとのコミュニケーションを取っていた。天気がコロコロ変わる状況だったから「ナカスガ、天気の状況はどう?」「もう一回雨が来ると思うよ」などと会話を交わしていたそうである。

決勝レースを必死に走っているライダー二人を中須賀ならではのやり方でフォローした。

「オレ達はチームだ。ナカスガを絶対に表彰台に上げてやる」

決勝を走れないと決まった朝、とても悔しかった。同時に、アレックスとマイケルが「オレ達はチームだ。ナカスガを絶対に表彰台に上げてやる」と言われて涙を止めることができなかったそうである。「鈴鹿8耐はひとつになって闘う競技なのでチーム力が大切。耐久レースを離れればお互いにライバルだけど、チームメイトを強く感じた。そう言う意味では今年、マシン、ライダー、スタッフ、団結力、全てのパッケージが一番強かったのがYAMAHA FACTORY RACING TEAMだったと思う」と中須賀。

中須賀が造り上げたマシン:YZF-R1

このチームは中須賀を中心としたチーム。世界のトップライダーが来ても”中須賀を中心に回す”ハッキリとした姿勢を感じる。マシンは中須賀が造り上げた。「マシンとしては一番古いけれど熟成を続けている。熟成=開発が止まった、と言う意味ではなく少しずつアップデートして進化している、という意味。その意味ではまだまだ強いマシンだと思う」と中須賀。そのアップデートのひとつひとつの基となるのが中須賀のコメントであり、レースウィークを通してのテストで得たデータである。

「チームとして4連覇を達成できたことは非常に良かった。自分が造ってきたマシンの方向性は間違っていなかったんだと、結果として証明できたし、自信に繋がる鈴鹿8耐だった。仮に自分がいなかったらマシンも無いし、この結果も無かったと思う」と振り返る。

鈴鹿8耐5連覇に向けた強力なモチベーション

「確かに決勝レースを走れずに悔しい思いはしたけど、いつまでも引きずっていても仕方ない。引きずったまま来年、この舞台に立ったときに自分が足を引っ張ることになってしまう。来年も自分がチームの中心に居たいし、居なくてはならないと思っている。そう言う意味では来年の鈴鹿8耐5連覇に向けて強力なモチベーションになっている」

「来年の5連覇に向けて彼ら二人が繋げてくれたんだから、その分来年はオレが頑張る」と中須賀。

決勝レースを走れず本当は悔しい、悔しくないライダーなんていない。だが中須賀はアレックス・ローズとマイケル・ファン・デル・マークとの信頼関係をさらに強固なモノにし、チームとして鈴鹿8耐4連覇を勝ち取った。

「それで良い。今年はマイケルが頑張った。アレックスもマイケルも中須賀のことをものすごくリスペクトしている。昨年はアレックスが頑張った、その前の年は中須賀を中心に特に第1スティントの走りの貢献が大きい。毎年毎年、誰かが余計に頑張る役目を負うライダーが出てくる。今年はマイケル。覚醒した。いつもの役では無いパートを担ったわけだから3人の鈴鹿8耐に対する知識がより深まってくると思う。ライダーひとりひとりが状況や走り方を理解して走っているのが理想だと思う。特に今年のようにコロコロ変わるコンディションのレースでは。」と吉川和多留監督。

全日本ロードレースチャンピオン奪回に向けて大きな意味を持つ1勝

鈴鹿8耐が終わってから約一ヶ月。全日本ロードレース後半戦スタートのツインリンクもてぎで中須賀克行に聞いた。そのレース、手負いの中須賀が優勝を果たす。誰も想像はしていなかった。厳しいレースになるだろう、とは想像していた。しかし中須賀は勝った。その精神力の強さ、「勝ち」への執念が身体的な辛さを凌駕したのだと思う。

「YZF-R1の20周年の年に鈴鹿8耐でしっかり結果を残せた。あとは全日本ロードレースでチャンピオンを獲る」と中須賀。鈴鹿5連覇の前に、全日本ロードレースチャンピオン奪回を狙う。そのために非常に大きな意味を持つ1勝をもてぎで挙げた。

photo & text : Toshiyuki KOMAI