二人のヤングサムライ:水野涼と榎戸育寛の世界への挑戦

2017/10/16

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2017 FIM MotoGP世界選手権シリーズ 第15戦 MOTUL日本グランプリ、Moto2™クラスに二人の日本人ライダーが参戦した。水野涼(MuSASHi RT HARC-PRO. Honda)、榎戸育寛(Teluru MOTOBUM Racing Team)共に19歳のヤングライダーである。

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甘いマスクの水野涼

水野涼。2015年、弱冠17歳にしてJ-GP3クラスチャンピオンを獲得。翌年からJ-GP2クラスにステップアップ、初年度は苦戦しながらもランキング3位。2年目の今シーズン、いきなり開幕3連勝を挙げ、6戦中5戦優勝という圧倒的な強さで最終戦を待たず岡山大会で早々とチャンピオンを決めた。

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甘いマスクで女性ファンを魅了する水野。しかし、この甘いマスクからは想像できないほどのむき出しの闘争心はアグレッシブな走りに現れる。昨年は、結果にこだわりすぎて空回りしたという水野。経験不足と空回りから転倒も多く思ったような成績を残せなかった。今シーズンは“危機感=このままではシートも危ない”から冷静に「レースの組み立て」を考えるようになったと言う。精神的に成長したことがチャンピオン獲得に繋がった。

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エンターティナー榎戸育寛

榎戸育寛。2015年から全日本ロードレースST600参戦。2016年、速さを持ちながらもケガや転倒で浮き沈みが多かったシーズンの最終戦、大激戦を制し全日本初優勝がシリーズチャンピオン獲得となった。その差たった1ポイント。榎戸自身、ウィニングランで第2コーナーを回るまでチャンピオンを獲ったことに気付かずチャンピオンフラッグを渡されて知ったという逸話の持ち主。今シーズン、J-GP2クラスにステップアップ、現在ランキング4位に位置する。

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エンターティナー。榎戸を現すひとこと。入賞時の記者会見では不敵な笑みを浮かべ「優勝したらマイクを取って歌います!」と周りを和ます。今年、メガネを止めてイメージチェンジ、榎戸の周りにはいつもみんなの笑顔が耐えない人気者である。。

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「世界に挑戦したい」二人の共通目的。

この二人には共通点がある。故:加藤大治郎さんの遺志を継いで創出された「DAIJIRO CUP」の卒業生である。74 Daijiroというポケットバイクで二人は幼少の頃からミニバイクレースで活躍していた。
 さらにもうひとつの共通点。「Moto2™クラスへのワイルドカード参戦」世界への挑戦であった。

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「世界へ出たい、という強い想いがあります。J-GP2からJSB1000へのステップアップは今のところ考えていません。今シーズンはMoto2™ワイルドカード参戦するために上位ランクを目指しました」「岡山大会に入る前、ここで勝てばチャンピオンを獲れると知り、どうせならチャンピオンを獲って行きたいと考えました」と水野。見事にチャンピオンを決めてモテギに乗り込んできた。

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「ST600で2年間走るより、ステップアップすれば見える世界が変わってくるような気がしました。もちろん相当厳しい状況が待っているのは覚悟の上です。ST600チャンピオンを獲ったことにより周りからの見る目、そして自分の見る目も変わってきたので、この変化:流れに乗ってMoto2™ワイルドカード参戦を目指しました」と榎戸。
今シーズン、カレックスのフレームにMoto2™仕様のダンロップタイヤを装着して全日本を闘っている。
「カレックスにしたのは、このMoto2™ワイルドカード参戦が理由ですが、カレックスで国内を走るという新しいことに挑戦しようと思いました」

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ハルクプロ本田重樹会長は「全日本のチャンピオンの実力が世界の中でどれ位の位置にいるのか、そして涼自身のチカラが(日本国内ではチャンピオンを獲るだけのチカラをつけたけど)世界にどれだけ通用するのか、を確認するために参戦を決めました」とコメント。

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MOTO BUMの岡部信之監督は「育寛の“世界へ行く”という強い意志を聞いたので、全日本チャンピオン獲得ではなくMoto2™ワイルドカード参戦を年初から目標にして、カレックスを選択しました」チームとしてMoto2™参戦を目標にしていた。

AS8Q5311A 存在感を見せた榎戸、メンタルにダメージを負った水野

金曜日のFP1、榎戸は2分7秒800のタイムで18番手につけ、初参戦ライダーとして上出来な印象を与えた。

一方、水野はFP1、FP2共に転倒を喫してしまう。特にFP2の転倒はS字1個目のハイスピードコーナーでの転倒のためマシンへのダメージが大きかった。
FP1の転倒はプッシュした結果の転倒(本田光太郎監督に言わせると”調子に乗りすぎ”とのこと)だったが、FP2の転倒は、何のインフォメーション無しに転倒したそうである。Moto2™のダンロップレインタイヤは初めての水野。この2回の転倒でタイヤを信用しきれずここ一番の攻めのタイミングで緩めてしまう。
堀尾チーフメカニックは「マシンは修理すれば治る。だけど、心のダメージはなかなか元に戻らない」と水野を気遣う。

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「FP1なのにガンガンプッシュしてきた。ハンドルに思い切り当てられてびっくりしたけどこれが世界の連中の走りか」と、いきなり洗礼を浴びた榎戸だが、それが彼の闘争心に火をつけた。土曜日のFP3、ラスト1周でタイムアップして18番手につける。「リーダーボードに自分のゼッケンを載せてやる」と考えていたという。

水野は金曜日の転倒で周回数が少なかった。加えて、レインタイヤに苦戦しているため、今ひとつ攻め切ることができず2分10秒488の32番手。

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ドライで本領発揮の水野、ドライセットに苦しんだ榎戸

公式予選。MotoGPのFP4、QF辺りからレコードラインが乾き始める微妙なコンディションとなってきた。Moto2™の公式予選序盤は各車レインタイヤでコースインするが、セッション中盤に各車ドライタイヤで出て行く。水野と榎戸もドライタイヤにスイッチ。

上位陣が2分を切り始めた頃、水野が本来の速さを取り戻す。1分59秒964で14番手に浮上すると、58秒台、57秒台とタイムを上げて行く。最終的に1分56秒729をマークして予選23番グリッドを獲得。

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一方、榎戸はこのウィーク初めてのドライセット。事前テストでデータは持っていたものの、本番仕様のマシンで、この微妙なコンディションではセットが合わず、しかも、榎戸自身の判断でピットインした結果、周回数が減ってしまいFP3までの勢いは感じられず1分56秒885で25番グリッドとなる。

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榎戸のロケットスタート!ポイント獲得の快挙。最後までレインタイヤに苦しんだ水野。

決勝日も雨。朝のウォームアップ走行でMoto3™クラスのマシン1台がオイルを撒きながら走行を続けたため赤旗中断。このコース復帰作業に1時間半以上要し、以降のスケジュールが大幅に変更となる。
いつ走行開始となるのかわからないのはライダーに余計な負担を強いるが、「少しレインタイヤに慣れてきた」という水野はトップから3秒以内差の2分9秒845まで詰めてきた。榎戸は思うようにタイムが伸びず2分11秒094の30番手。

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Moto2™クラスは8周減算の15周で争われることになった。決勝レーススタート、ここで榎戸が一気に飛び出す!「みんなイン側を走るのがわかったので思いっきりアウト側に寄せた」という榎戸。「目の前に誰もいないクリアラップ」から思いっきり攻めて走った。オープニングラップではなんと世界の猛者を相手に10人抜きの15番手まで順位を上げる。これが功を奏し、中位集団に混じって走行を続け、14位でフィニッシュ、初参戦にしてポイントを獲得する快挙を成し遂げた。

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水野はスタート直後のウィータースクリーンの中、集団の後方に位置してしまい、オープニングラップは26番手。2周目には22番手まで浮上、レース中盤に17番手にまで順位を上げるも終盤にかわされてしまい22位でレースを終える。

世界を視野に入れた二人の若者の挑戦。

ヤングサムライ二人のワイルドカード挑戦は終了した。できればドライ路面で、世界のトップライダー達の走りを間近に観て、揉まれ、世界のレベルを知り、自分の位置を確認して欲しかったがこれもレースである。

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「決勝レースに向けてセットを変えたけど合わず、ペースを上げることができませんでした。単独で走っていたので世界のライダー達と一緒に走れなかったです。何もできず学べるものが少なかったことが悔しいです」

水野は、初めて履くダンロップのレインタイヤに最後まで合わせきれず、初日の転倒で巣くった“攻める=転倒”のイメージを払拭することができず本来の速さを発揮することができなかった。

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レース後、本田光太郎監督は「ドライでトップライダー達の走りを学ばせたかったのですが残念です。涼も苦しみながらもこのMoto2™の世界だったり、レースへの取り組み方などを吸収してくれたと思う。それを今後のライダー人生に活かしてほしいです」「最終戦鈴鹿ではチャンピオンらしく良いレースをしなくてはならい義務があるのでしっかりと決めたいと思います」と悔しいながらも今後の水野に期待するコメント。

AS8Q4999「1周のウォーミングアップ走行で他のみんなが遅かったので、“序盤は飛ばさないかも””これはチャンスだ”と 1周目からプッシュしていきました。
“スタートはアウト側から行く”と見切りをつけて飛び出したら本当に誰もいなくて(笑)、オーバースピードのリスクはありましたが承知の上で攻めました。この1周目が良かったのだと思います」
「(世界のライダーは)我慢が凄いです。食わないレインタイヤで挙動が大きい中で堪えながらあの速さで走る。さらに、ラスト1周で尋常ではないほどペースを上げた、それについて行けませんでした。GPライダーの真骨頂を観た気がします」

ドライでは苦慮したものの決勝レースに合わせて上手くセットを詰めてきたチームの総合力と、榎戸の決勝レースでの思い切りの良さが光った。

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「全日本でも1周目のスパート、集中力は高いので1周目は狙っていたと思います。10台抜いて中段グループでレースができたのが彼にとって良かったと思います。このワイルドカード参戦を通じて一回り大きく成長した榎戸育寛を見せられたらいいな、と思います」と岡部監督。

3日間とも雨という過去に記憶に無いコンディションのウィークであったが、雨でもトップライダーの走りは速く、二人が今回の参戦で得たものはあるはずである。
世界を視野に入れた二人の若者の挑戦。今後の二人の走りに大いに期待したい。

Photo & text :Toshiyuki KOMAI
Moto2™ track photo:Toshiya Onishi

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