ホンモノになり得るのか?大器晩成型高橋巧選手の成長への期待

2014/06/19

ホンモノになり得るのか?大器晩成型高橋巧選手の成長への期待 

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 「それはSUGOのレースウイークに走り出してみないと分からないな」

2013年の鈴鹿8耐で優勝。高橋選手にとってこれは2回目となる鈴鹿8耐制覇ではあるが、1回目は先輩ライダーたちに引っ張られる形での優勝。対して昨年の鈴鹿8耐は自らが全日本の戦いの中で仕上げたマシンを使い、二人の外国人ライダーにアドバイスを与え、チームの柱となって手にした勝利。これで大きく成長するのではないかとチーム監督の本田重樹氏へ尋ねたところ、返ってきた言葉が冒頭のものだった。

  好調でもコンディション急変により勝てない。一皮剥けそうで足踏み。

そんな状態が続いていた。しかし今年は開幕戦こそ2位で終わったものの、第2戦、第3戦と連勝。「今年の高橋選手は違う」と多くのレース関係者にそう印象付ける第3戦となった。「今、見せている速さが本物かどうかはもう少し見守る必要があると思う」と、本田監督は慎重だ。「多くのライダーの中から抜け出し、一流と呼ばれるレベルになる過程には大別すると二つある。一つはレースでの勝利によって一気に突き抜けるタイプ。そしてもう一つはいわゆる大器晩成型。巧は間違いなく後者」(本田監督)

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セットアップで使う言葉は『高い』『低い』『強い』『弱い』で十分

とは言え、高橋選手の走りを支えるチームサイドも、成長を強く感じている。その一つが、マシンをセットアップする過程で出てくるコメントの精度。高橋選手がコースから戻り、マシンの問題点を指摘。これを受けてチームサイドがセッティング変更をし、再びコースへ送り出すと、タイムアップという明確な結果を出すその確率が上がっているのだ。

「ターニングポイントは昨年の鈴鹿8耐だった」と本田監督は言う。
「巧は自分の感じたことを、言葉にして人に伝えるのが下手。だから、感じたことをできるだけシンプルな言葉で伝えるようにしてみろとアドバイスしたんだ。ライダーがバイクのセットアップで使う言葉は『高い』『低い』『強い』『弱い』で十分。例えば、フロントが高いと感じたなら、低くする。低くすると、そこにかかる荷重が増えるから弱く感じるようになる。じゃ、スプリングのレートを上げて強くしようか、となる」
自分のコメントを元に仕上げていくバイクが確かなものとなっていけば、ライダーは当然、自分の走りに自信を持つようになる。

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全てが上手く噛み合い、結果となって現れているIMG_2912

さらにまた、チームサイドの状況変化も高橋選手には結果的に好状況を生んだ。
JSB1000クラス初年度は、チーフメカニックである堀尾勇次氏が担当。しかし2年目から以降2年間は、本田光太郎氏が受け持った。年齢的に近い光太郎氏に、高橋選手は話しやすい。特にマシンに関する多くのノウハウを持つレース界の大先輩堀尾氏に対して、難しいことを言わなくてはいけないのではないかと高橋選手も慣れない言葉を使い、背伸びしたコメントをしようとする。しかし年齢も経験も同じような光太郎氏が相手であれば、コミュニケーションはしやすい。そうした環境でJSBマシンに慣れ、セットアップ方法も学び、今年は再び堀尾氏が 担当することになった。
昨年の鈴鹿8耐以降、シンプルなコメントをするように心がけ、その精度を高めてきた高橋選手。そして3年ぶりに直接担当するようになり、コメントの変化に手応えを感じる堀尾氏とのコンビネーション。高橋選手&光太郎のコンビで作り上げてきたマシンに、さらに経験豊富な堀尾氏のデータが加わる。

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MotoGPマシンテストでもコメントの精度が向上してきた

それと、4シーズン目を迎え、「チームとしても巧のマシンの好みが把握できてきたことも大きいと思う」と本田監督。

「ライダーのマシンの好みには2種類あって、一つはセットアップの幅があるライダー。もう一つは、その幅が狭いタイプ。巧は比較的狭い方で、チームもそのことを4シーズン一緒に戦ってきてかなり分かってきた。それも、単に狭いということだけではなく、どういう方向が好みで、しかもその幅がどれくらいなのかというディテールまで理解できていた。これも巧にとって大きな武器になっているはず」と本田監督。昨年から高橋選手はHRCのMotoGPマシンテストにも参加するようになった。ホンダ関係者に聞くと、テスト2年目となる今季になってからの高橋選手のコメントの精度が非情に高く、HRCエンジニアが強い信頼を寄せるようになっているという。

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「本物っぽくなってきた」本田重樹監督の期待と信頼

今年のシーズンオフは、これまでにないくらいダートトラック、ミニバイクなど、二輪に乗る時間を意欲的にとった高橋選手自身の努力が、活躍の背景にはもちろん存在している。しかし、従来の流れの中から大きく前へ踏み出すことができたその力強さは、高橋選手の周辺に存在するたくさんのピースが一つの絵として完成されつつあることによって具現化されている。

「本物っぽくなってきた」と笑う本田監督の言葉が、現在の高橋選手の真の姿を的確に表現しているのではないだろうか。紛れのない本物になるためには大器晩成型の高橋選手にとって、さらに勝ち星を積み上げ、自分自身の中にしっかりと自信を刻み込んでいく以外、方法はない。

本物になり得るのか。

その答は、今シーズンのこれからのレース結果が導き出してくれるはずだ。

text : Shigeto Kawakami
photo : koma

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