関口太郎、自分を追い込むための世界への挑戦

2016/10/19

IMG_2259関口太郎、自分を追い込むための世界への挑戦

2016年MotoGP日本グランプリ、久しぶりに世界の舞台に立つライダーがいた。関口太郎。今年40歳ながら年齢を感じさせないアグレッシブな走り,強靱な精神力で全日本ロードレースJ-GP2クラスランキング2位(第8戦終了時点)。世界選手権のワイルドカード参戦は若手が世界に飛び立つ登竜門的な位置づけが多いが関口は若手とは言えないベテランだ。何故参戦したのだろうか。もちろんこの先、世界で闘ってみたい、という想いもあるだろう。しかし関口が今回ワイルドカード参戦を決めたのは自分自身を追い込むためであった。

IMG_2228「世界の走りを肌で感じたかった。自分がどれだけダメなのか、温いのか、を見たかった」と関口。

関口のことをダメだなんて思っている人は誰もいないが、関口は今よりも厳しい環境の中に自分を置いて見つめ直したいと思っているのだろう。

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世界選手権が持つ緊張感

関口はかつて世界選手権GP250ccクラスで世界を転戦していた。当時は走り方もウィークのまとめ方もよくわからずいろんな人に「ここはどうやって走るの?」「どうすればいい?」と聞きまくりながら、オートバイとレースに向き合っていた。レースの回数も全日本の比ではないくらい多い。「常に高い緊張感の中で過ごしていた。あの頃の自分の気持ち、自分自身のモチベーション、取り組み方、向き合い方、などもう一度この世界(世界選手権)に立てばひらめくものがあるかもしれないと思った」と言う。

IMG_2242_2「Team Taro」で参戦。

とは言え、ワイルドカード参戦したいからと言って誰でも走れるほど世界は甘くない。エントリーするための権利を得なくてはならない。関口は今シーズンここまで(第8戦終了時点)表彰台3回獲得、常に上位争いに加わり安定した強さを見せてランキング2位の位置にいる。昨年後半からチームの取り組みを変えてマシンの熟成が進んだ。信頼できるメカニック、いつでも協力してくれるスタッフ、全ては「関口太郎」というオトコに引き寄せられてできたチームだ。ワイルドカード参戦も全日本を帯同している「Team Taro」で臨んだ。

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関口の廻りには常に人が集まる

木曜日、支給されたエンジンが載らないアクシデントが発生。試行錯誤の末、なんとか乗ったが今度はマフラーが着かない。関口は遠く鈴鹿にいる「クラフトアルマジロ株式会社」の永田社長に電話をした。すると、永田社長は徹夜して造り上げたマフラーを鈴鹿からクルマを走らせて届けに来たそうである。そう「太郎ちゃんの頼みだから」。

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このレースウィーク、関口のピット裏には常に人が集まっていた。全日本ロードレースライダー、OB、チームを応援している人々、イタリアのチーム関係者、ワイルドカード参戦チームの中で一番賑やかだったのではないだろうか。
「マッティア・パジーニや、シモーネ・コルシが走り方のアドバイスをしてくれたのが嬉しかった」。それもこれも関口の人柄によるものである。

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ビリだったけど出て良かった!

参戦の結果は、予選30位。決勝レース22位。決して満足などしていない。悔しいはずである。だがこれが今の現実。
「とにかくライダーがスゴい!自分の概念にはない走りをしている」と関口。「例えば、2コーナー、4コーナーは彼らにとって直線、ガバ—!っとアクセルを開けながら立ち上がっていく。そんな走らせ方を見たこと無かったし、考えもしなかった。」日本人は「コーナー」として捉えて走るが、Moto2のトップライダー達はそんな概念を覆す走りをしている。「テレビで観ていて、このライダー遅いな」って思っていたライダーにすら追いついて行けなかったそうである。

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世界との圧倒的なレベルの差を感じたレースウィーク。しかし関口は「最初から厳しい闘いになるのはわかっていた」「見るのとやるのとでは雲泥の差。コースを一緒に走って観たものは忘れないし、この経験は絶対に全日本で活きてくる」という。

3年前のフレーム、技術面・レギュレーション面の情報が全く無い、走り込む時間が圧倒的に少ない、不利な条件はいくらでも挙げられる。だが関口は一切言い訳を口にしない。信頼できるスタッフ、熱い情熱と誇りが関口を支え、困難を乗り越えて参戦した。

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プライベートではこの夏、パパになった。陰になり日向になりいつも関口を支えている奥さまと愛娘も関口の闘いを温かく見守った2016年のMotoGP日本グランプリ。

「ビリだったけど、出て良かった」自らを鼓舞する関口の全日本ロードレース最終戦の闘いが楽しみである。

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photo & text : koma
special thanks : Toshiya Onishi (Moto2走行写真)

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