21年振りの女性ライダー参戦!岡崎静夏の世界への挑戦

2016/10/18

shizuka

21年振りの女性ライダー参戦!岡崎静夏の世界への挑戦

2016年MotoGP日本グランプリ、21年振りに女性ライダーが世界選手権に挑んだ。岡崎静夏24歳。

全日本ロードレースJ-GP3クラスにフル参戦4年目、今年の岡崎は急成長している。2016年開幕戦筑波、予選14 位から自己最高位の6位入賞を果たす。2014年ランキング22位、2015年ランキング13位、現時点のランキングは6位(第8戦終了時点)。上位争いに絡むレースが増えた。

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最近、レースへの取り組み方を変えた。10代の頃は「レースは気合いと根性だ」と無謀な闘い方をしていた。転倒したら自分が痛い思いをするだけ、失敗したら自分が落ち込むだけ、と考えていたが、「レースはチームで挑むもの、自分独りでは闘えない」「だから決勝レースは何が何でもチェッカーを受けなくてはならない、そのためのマシンセッティングであり、フィジカル/メンタルトレーニング。レースは技術勝負だと気づいた」と岡崎。

IMG_2086 ライダーとチームが上手く噛み合い、相乗効果が生まれている

岡崎が所属する「UQ&テルル・Kohara RT」小原斉監督もその変化を感じている。以前は「マシンはどう?」「どこが悪い?」と聞いても「大丈夫です、気合いで頑張ります」という返事でライダーに合わせたマシンセットが詰め切れなかった。しかし、最近はマシンや走りに対する理解度が上がり、「ここが変わったからこういう風に乗れば良いんだ」と、理解できている。当然マシンへの要求が出てくる。チームの指示やマシンセットを岡崎自身が理解する、そこに対する岡崎からのコメント、ライダーとチームの両方が上手く噛み合い、相乗効果が出てきているので今年の戦績に繋がっていると思う、と小原監督。

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ワイルドカード参戦決定より小原監督に認めてもらえたことが嬉しかった

開幕戦で6位フィニッシュ。この時「今年はワイルドカード参戦を狙いたい」と考えたそうである。必ず完走、しかもシングルフィニッシュを目指す。その後の岡崎は好調を維持、第2戦モテギ10位、第3戦SUGO8位、その時点でのランキング8位であった。ワイルドカードは、“エントリーしたライダー”のランキング上位2人に権利が与えられるので、必ずしもランキング1位、2位のライダーが参戦するとは限らない。

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「具体的に自分がバイクをコントロールする方法を考えていたらGPライダーの走りが気になって、あの走りを間近で観たい、あの走りがしたい」と思ってきた。そこで小原監督にダメ元で申請してみたら「やってみろ」と。小原監督は「世界選手権は「走りたい」と言って参戦できるレースではない。権利を得なくてはならない。その権利を今年時期尚早と見送ったとして来年(参戦の)チャンスが来る保証はないので、ギャンブル的な面は否めないが岡崎の経験のために参戦させようと思った」とその理由を語る。
岡崎はワイルドカード参戦決定の知らせよりこの小原監督からの「やってみろ」というひと言が嬉しかったそうである。

IMG_2138cover 世界とのレベルの差を目の当たりにした3日間

いよいよ迎えた世界選手権日本グランプリ。世界の走りはどれほどのものであろうか、しかと見届けてやろうと臨んだ岡崎であったが、そのレベル差に愕然とした。

ウィーク初日「あんな抜かれ方したことない。J-GP3ではスーッと抜かれるけど、Moto3では“バキューン!”と抜かれる。マジか?!」
しかし、自分が思うようにバイクを動かす事ができればタイムアップはできると思う。どこまでその差を詰められるかを考える、課題はハッキリした、と岡崎。

IMG_2076 ウィーク2日目、予選。「チームのおかげでマシンのセットは確実に詰まってきている、それでもタイムが伸びないのは明らかに人間(岡崎自身)の問題。やるべきことができていない」と岡崎。
課題はブレーキング。特にモテギはストップ・アンド・ゴーのブレーキに厳しいコース。「ブレーキをドン!とかけて曲がる」が基本。Moto3エンジンの特性から回転数が落ちてしまうとコーナーの立ち上がりでアクセルを開けても前に進まない。だからブレーキングの時間を短くして回転数の落ち幅を少なくして立ち上がることをやらなくてはならないがそれができていない。「今のバイクで、今のエンジンで,タイムを出す方法を考えなくてはいけない」。
予選はポールポジションから6.3秒遅れの34位。

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ウィーク3日目、決勝レース。「1周目、2周目で離され過ぎ。前が離れていくのがわかったのでドンドン突っ込み過ぎてアクセルを開けられない、さらに差が開く、の繰り返し。自分の走りに立て直すのに3周もかかり、その時にはすでに大きな差が開いてしまった」圧倒的な差を見せつけられた。

課題はわかったが、その克服のために自分がどう走れば良いのか、どうやってマシンを作れば良いのか、が明確に理解できず小原監督をはじめチームに伝えきれなかった、と完敗を認める岡崎。決勝は最下位の26位。

だが収穫もあった。V字やヘアピンで「ブレーキング、曲げる、アクセルを開ける」を分割した走りにするのではなくスムーズに流れるように一連の動きとして走る感覚を掴めたと言う。
「独りで走っていたけど、最後の数周は回転を落とさないうちにブレーキを終わらせてアクセルを開けて流れるように走れるようになった」と岡崎。

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「走ることが楽しい」岡崎の前向きな姿勢と強さ

世界の舞台に立ち、歴然たる差を思い知らされた岡崎。しかし岡崎は落ち込んでなどいない。前向きである。岡崎に話を聞いていると「楽しい」という言葉が多い。今、岡崎はレースが楽しくて仕方ないと言う。

「今の生活の中心にレースがあり、常にレースの事を考えている。ハイサイドしている夢をみて目覚めることもあります(笑)」と岡崎。タイムが出ない、セッティングが決まらない、そんなときでもどうやったらタイムが出せるのか、どうやったら決まるのか、をアタマの中でイメージしながら実践に移す、そのことが楽しいと言う。

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 観るのとやるのとでは大違い。「世界との差を実感できたのが良かった。ウィークを通してGPライダーの走りにほんの少し近づけたような気がする。メチャクチャ悔しいけど楽しかった、勉強になった」と岡崎。

小原監督も「リザルトをみれば火を見るよりも明らか、闘えるというレベルにないほどのチカラ不足。だけど今回は世界の技術、世界の走りを同じコース上で走ることによって自分の糧としてひとつでもふたつでも吸収することが主目的。それが全日本ロードレースの走りに活かされ、タイムやリザルトに反映されてくるのが楽しみ」と参戦して良かったと語っている。

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岡崎の世界への挑戦。圧倒的な差を見せつけられたが、その差を埋めよう、近づけよう、と常に前向きに考えて臨んでいる岡崎にその強さをみたような気がする。この経験を基に、全日本ロードレース最終戦、そして来シーズンの岡崎の飛躍が楽しみである。

photo & text : koma
special thanks: Toshiya Onishi (cover photo)