阿部恵斗の世界を見据えた挑戦④ 歯車が狂い始めたオートポリスラウンド

2024/02/05

2023年「Team 51 GARAGE YAMAHA」の阿部恵斗の挑戦を追う第4弾。5月のSUGO、6月のアジアロード選手権SUGOで絶好調をキープしたが、約3ヶ月のインターバルを挟んだ9月のオートポリス大会。ここでの転倒をきっかけに阿部の歯車が狂い始めた。

予選で転倒

アジアロード選手権SUGOで辻本聡は「この長いインターバルが嫌だ」と言っていた。調子の悪い選手は見直す時間となるので後半戦に向けて良い方向へ向かうが、調子の良いライダーはそれをキープすることが難しいと言う。

阿部は予選4周目、3コーナーで転倒。「(1分52秒台に)入れそうだったのでタイムアタックしようかなと思ったらリアブレーキを踏むタイミングが少し遅かったです」

身体にケガはなかった。しかし辻本もブレーキにちょっと違和感を抱いていた矢先だったのでチームに不安が残る。

最初にアタックしたタイムが生きて予選3番手を獲得する。

「他の選手より高いアベレージの自信はあります。自分の強みは後半なのでそこで勝負を仕掛けようと思います」

西村も不安材料だらけ

西村硝は予選2番手を獲得。事前テストのセッティング数値が実際とは微妙に違うことが判明。セットをやり直し事実上ゼロからのスタートとなった。金曜日には「不安しかないですよ」とビッグマウスにしては珍しく消極的なコメント。「ポンと乗って53秒台に入ったのは良いのですが全てが未知数。このセットで良いのか走ってみないとわからないのが不安です」

予選に向けて大きくセッティングを変えることはあまりないのだが今回はかなり変えた。それが当たった。「一発のタイムには自信がありますがまだロングランをやっていないので明日の決勝は様子を見ながら終盤に勝負を仕掛けようと思います」

決勝レースは2位

迎えた決勝レース。ポールポジションを獲得した長尾健吾が序盤からハイペースで逃げにかかり独走体制を築く。阿部はスタートで出遅れ、オープニングラップを5番手で通過する。5周目に2番手に浮上するが時すでに遅し、長尾健吾とは3秒近い差が開いていた。

「スタートで遅れたことが全てです。ラップタイムペースも昨年より悪くて長尾選手に追いつくことができませんでした。途中からチャンピオンシップに頭を切り替えてポイントを取ることに専念しました。自分らしいレース展開ではありませんでしたが最後(最終戦)を笑顔で終えられたらと思います」

チャンピオンシップに頭を切り替えた

2位でゴール。がむしゃらに勝ちを獲りにいくいつものスタイルとは違うがキッチリとポイントを獲得した。予選時の転倒とその後のマシン修復にもヒューマンエラーがあった。それを言い訳にせず「あとは自分でアジャストします」と言ってしまう阿部。辻本は「そこはライダーがなんとかするのではなくチーム・メカニックが解決すべきことで、恵斗もしっかりと指摘できるようにならないといけない」と言う。

宗和はレース後に「しっかりとしたマシンを提供できなかったのもヒューマンエラーを招いたのも自分の責任。その中でしっかり2位を獲得できたのは恵斗の底力です」と自らを責める。

決勝で挽回した西村

一方の西村、序盤は2番手につけ、中盤は鈴木光来、阿部、伊達悠太と順位を入れ替えながら周回を重ねる。終盤、鈴木がマシントラブルで失速した際に阿部との差が開いてしまい、井手翔太とのバトルを制して3位でチェッカー。

「長尾選手のペースがあそこまで上がるとは思っていませんでした。最終ラップはブレーキングは自分の方が強いと自信があったので井手選手のラインを読んでインを刺しました。金曜日からのバタバタを思えば表彰台に登れたのは良かったと思います」

岡山大会もトラブル続きの阿部

続く第7戦岡山。阿部の悪い流れは変わらない。事前テストでトラブルに見舞われ、解決してレースウィークに入ったはずなのに今ひとつ伸びない。トップからコンマ6秒遅れ。更に予選ではクラッチトラブルが発生する。「減速時にシフトダウンするとリアからのチャタリングが激しく、自分ではどうやっても抑制できませんでした」 金曜日にクラッチを新品に組み替えた。その際にヒューマンエラーが発生、予選時のトラブルに繋がった。さらに電気系でも不具合が生じ「やることがてんこ盛りです」と阿部。そんな状態の中でフロントロー・予選3番手を獲得する。

「トラブルがなければ34秒台には入っていました。ライダーだってミスをします。オートポリスの転倒から流れが悪くなっているのは実感しますが、流れを建て直すのもライダーの仕事です」

と、チームを責めるわけでもなく「ライダーがなんとかする」と自分で解決しようとしている。

だがオートポリスで辻本が言っていたようにマシンに対していろいろなリクエストをするべきである。それは阿部も理解している。だが自分でなんとかしてしまう器用さが仇となっている感がある。

レコード更新で初ポールを獲得した西村

対して西村は絶好調。金曜日はトップタイム。予選ではコースレコードを更新してポールポジションを獲得する。そのポールポジションは長尾健吾に抜かれた後の11周目にタイムを出したものだった。

「序盤に34秒836をマークしたので決まった!と思ってピットインしたら“2番手だよ”と言われて愕然としました。もう一度アタックに行ったのですがタイヤの美味しいところが終わっていて、止まれない・曲がらない・どのコーナーでも転びそうでしたが意地でアタックしました」「ポールポジションって一番速いヤツって感じでカッコイイじゃないですか」と自身初のポール獲得を喜んでいた。

2位フィニッシュの阿部

決勝の朝フリーでも阿部のマシンにクラッチトラブルが発生して4周しか走れなかった。迎えた決勝レースは5周目に入ったところで赤旗中断。再開後15周によるレース2となった。阿部は課題であるスタートで出遅れて7番手でモーターサイクルシケインに進入する。第1ヘアピン、ダブルヘアピンで2台をパスしてオープニングラップは5番手。

「スタートで失敗、焦ってアクセルを開けたら1コーナー進入でハイサイドを起こして一気に7番手まで落ちました。それが全てです」

ダブルヘアピン一つ目の進入速度が速い阿部は小山知良、長尾健吾、伊達悠太を仕留めて残り7周で2番手に浮上するもトップの西村とは2秒以上の差が開いていた。更にその頃に腕上がりを起こしていた。「初めての経験でした。アクセルに持ち替えられない・開けられない・戻せない、どうしようもなかったです」

結局そのまま2位でチェッカー。「事前テストからトラブル続きでしたが諦めずにマシンを仕上げてくれたチームに感謝です」

自分ひとりで抱えようとする阿部

「強いライダーだったらこう言う時にカバーできると思います。それが武器になりますので。自分にはそこが足りませんでした」と相変わらず自らを責める。辻本も宗和も「恵斗だからこの状況でも2位に入れた」と口を揃える。「優秀なライダー二人をキチンと走らせるほどのチーム力が無いのが申し訳ないと思っています。恵斗はアジアロードのインドネシアから歯車が噛み合わず、その流れの悪さを日本に持ってきてしまいました。その中で今回の2位表彰台は満点の走りです」と宗和。

辻本と宗和が言うようにこの状況の中で2位でフィニッシュしてポイントを加算した阿部の底力を讃えるべきだろう。阿部は自分ひとりで抱えようとするがマシンをしっかりと造るためにも、チームが成長するためにも要望をキッチリと伝えなくてはいけない。

西村は今季2勝目!

西村はスタートから飛び出し、一度伊達悠太に前に出られたがすぐに抜き返すとその後はトップを走り続ける。「決勝では千切れない、逃げられたらラッキー、くらいに思っていました。伊達選手に抜かれた後に”今、ここで行けば逃げられるかな“と思い、その後3〜4周は全力でプッシュしたのですが引き離せず少し焦りました」

しかしその後西村は35秒台をキープ、後続は36秒台となったのでその差は徐々に広がっていく。阿部が2番手に上がってきた時には2秒以上離れていた。そこで勝負あり。そのまま西村が独走で今季2勝目を挙げる。

「前に出てからは後を気にせず全力で集中して走りました。そこで離れたと思います。自分はガソリンが減ってきた時にもう一度ペースを上げられる自信があったので後半もプッシュしました」

「SUGOでは赤旗中断で勝ったのでウィニングランを走れませんでした。今回は堂々の勝ちなのでメチャクチャ嬉しいです」

明暗が別れたオートポリスと岡山

岡山終了時点でのシリーズポイントでは阿部:105、西村:90。阿部優位には変わりないがオートポリス、岡山は明暗が別れた。阿部は流れを呼び戻して勝利に繋げられるか、西村は好調を維持して逆転チャンピオンを獲得するのか、残すのは最終戦鈴鹿のみとなった。

Photo & text:Toshiyuki KOMAI