2023年、2024年、そして2025年の最終戦鈴鹿をダブルウィンで締めくくった水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)。これで3年連続6連勝。独走で勝利、速かった。2位には浦本修充(AutoRace Ube Racing Team)、3位に野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)。2番グリッドの中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)はリタイア届を提出欠場した。
JSB1000クラスのスタート進行くらいから雨脚が強くなってきた。昨日のレース1よりも雨量が多くウォーミングアップ走行では白いウォータースクリーンで画面が真っ白になるほどであった。
13:40、16周による今年最後の決勝レースがスタート。ホールショットは野左根が奪う。浦本、岩田悟(Team ATJ)、水野と続いて1コーナーに進入する。2コーナーで浦本が野左根のインを突く。しかしすぐさま野左根が抜き返しトップをキープ。
ヘアピンで浦本がアウトから野左根をかわしてトップを奪う。ウォータースクリーンが広がる中、水野が130Rで野左根をパス、さらに最終シケインで浦本のインに飛び込みトップを奪いオープニングラップを制する。
このオープニングラップでの攻防が勝負を決めた、と水野は振り返る。
「恐らく浦本選手は自分(水野)のリズムを崩すために野左根選手を間に入れたのだろうと思います。だから逆に(浦本の)リズムを崩してやろうと思い、先ず野左根選手を抜いて、最終シケインでちょっと強引に浦本選手を抜きました。そこからは自分のペースを刻むことができました」
「レースをコントロールできた完璧なレースでした」と水野。
「レース1で序盤と雨量が増えた後半でフィーリングが変わったので、それをタイヤを変えずに車体のセットだけで変えたところ、それがビシッと決まりました。朝フリーでその感触を掴むとレースでも変わらずペースを刻むことができました。」
それを裏付けるように水野のラップタイムペースはレース1より約2秒速い。3周目には2’17.909のファステストをマーク。水野と浦本との差が開いたところでセーフティカー(SC)が入る。200Rで中村 竜也(KRP SANYOUKOUGYO RSITOH)が激しくクラッシュした。
SCは3周を周回。残り9周でリスタート、水野が築いたリードがリセットされてしまったが水野は慌てない。
「SC明けも落ち着いていて、後続が再び離れるまではプッシュしようと考えていました」
一方の浦本。昨日のレース1から浦本のコメントを元にセットを変えた。朝フリーでは水野を抑えてトップタイムをマークした。浦本も昨日より決勝レースのペースは約2秒近く上がったが、同じく水野もペースが上がったためその差を詰めることができない。結局そのまま水野が逃げ切り最終戦でダブルウィンを飾る。
「昨日に続き完敗です。昨日よりもラップタイムペースが上がったのでついて行けるかな、と思いましたが水野選手がそれ以上にペースを上げていたので追いつけませんでした。“転んでも良い”とまでは思いませんでしたが、さらに思い切ってペースを上げようとトライしましたが、昨日よりも雨量が多くて何回も転びそうになり危険でした。
最後はマシンを壊さず無事にゴールしてデータ収集することに切り替えました。
レースに“たられば“はありませんが、ドライでレースをしたかったです」と唇を噛む。
水野と浦本のペースが速く、3番手以降との差は7秒以上開いた。レース1では熾烈な表彰台争いが展開されたがレース2では野左根が単独走行を続ける。その後方では岩田と阿部恵斗(SDG Team HARC-PRO. Honda)が4位争いを展開していた。
最終戦に向けてエンジンを大幅にアップデートさせて乗り込んできたがレース1ではエグゾースト系のトラブルによりペースを上げられなかった野左根。
「エンジンパワーもかなり上がった実感はありました。ですが初日の木曜日はその違いになかなか合わせることができず時間が過ぎてしましました。金曜日にやっとまとめられたのですが土曜日の予選は微妙な路面コンディション。決勝はウェット、正直ドライで戦いたかったと言う思いはあります」
「アップデートしたパーツのおかげで馬力が上がりましたが、エンジンだけではダメで、そこに合わせたセットアップが必要なのですが詰め切れませんでした。だから昨日のレース1でエグゾースト系のトラブルが出てしまいました。
今回は水野選手と浦本選手のペースが速く、そこに追いつけるだけのペースを持てませんでした。」
「チームに1勝をもたらせて上げたかったのですがそれができず悔しい思いはありますが、常にチームがより良いものにしようと懸命に努力してくれますので自分もライディングスタイルや走りを変えてそれに応えてきました。来シーズンさらに強くなって戻ってきたいと思います」
ヤマハのイメージが強い野左根だったが、この2年でホンダを代表するライダーになってきたと思う。序盤飛び出して掻き回すが後半失速すると言うパターンが多かった昨年から、常にトップ争いに絡んで後半までペースを維持できるようになった今年、確実にその存在感を示した。
4位には岩田。「昨日のレース1は電気系のトラブルが出てしまいペースを上げられずにズルズルと下がってしまい我慢のレースでした。その反省を踏まえて朝フリーに臨みフィーリングは良くなりました。レース2は昨日の雨量が多い時と同じコンディションとなり、自分的は走りやすくフィーリングは良かったのですが、表彰台争いをしているトップ3台に迫るほどのペースを持っていませんでした。」
「昨日から今日の流れでは確実に良くなりましたし、今シーズンも課題と解決を繰り返してチームの底上げができたと思っています。今年から鈴木光生と言う若いライダーが加入し一年目でここまでの走りができるのはすごいと思いましますしそのマシンを作り上げたチームにも感謝しています。我々にできることは若い世代に乗りやすく速いバイクを作ることなので来年も引き続き頑張りたいと思います」
5位は阿部恵斗。名越哲平がドクターストップで急遽出場できなくなり、木曜日の走行1時間前に大役出場が告げられた。「一応装具だけ持ってきてと言われて現場入りしましたが、まさか1時間前に言われるとは思っていませんでした。心の準備もできないままにウィークに入りました」
「ブリヂストンタイヤの潰し方に慣れるのに戸惑いながらもなんとなく掴みかけたところで予選に臨んだら中途半端な路面でタイムが伸びず。レース1はいきなりのウェット。岡山のデータがあったのですが路面ミューやコンディションが違うので詰めきれず、セットも外し気味だったので全くペースを上げることができませんでした」
我慢のレースを強いられたが転んでもタダでは起きない阿部。レース2のことを考えながら走っていた。
「明日(レース2)も雨だろうからこの症状が出ているからこうしようとか、ここで滑るのはこれが原因かな、などを考えながら走ってレース後にチームと話し合って詰めました。そのおかげで朝フリーでは良いフィーリングを得られて4番手でした。しかし、当然ですが上位チームはデータを持っていますし一流のライダーばかりなので一筋縄ではいかないな、と実感しました。でも6位以内入賞を目標にしていたので5位に入れたことは良かったなと思っています。」
決勝レース後シリーズチャンピオン表彰式が行われた。チャンピオンは前戦岡山大会で決めた中須賀克行。前人未到の13回目のチャンピオン獲得。ただただ凄い、のひと言。最終戦は残念ながら2レース欠場したが存在感は示した。レース後、中須賀にコメントをもらった。
「決勝レースを欠場したのは残念で、ファンの方には大変申し訳ないことをしたと悔いが残ります。ドライだったら出場するつもりでグリッドに着きました。天気予報では雨が止むとのことだったので。サイティングラップに出るまで西コースの状況が分からず走ってみてびっくりでした。こんなに濡れているのかと。チームからは雨だったらキャンセルと聞かされていたのでそのままピットインしました」
木曜日のハイサイドの転倒は右肩と両足へのダメージが大きかった。「シフトダウンがまともにできず、雨のレースだと転倒のリスクが高いですしシフトのワンミスで他車を巻き込む恐れがありました」
そんな状態で予選では2分5秒台で2番グリッドを獲得。信じられないリザルトだがそこまでして出場したのはライバルたちにプレッシャーを与えたかったからだと言う。
「怪我したから欠場する、ではなく中須賀はまだやる気だ、と周りに思わせたかったからです。まだ諦めていないことを見せる必要がありました」根っからの勝負師。負けることが大嫌い、中須賀克行たる所以だ。
木曜日の転倒はここ数年課題としている「走り方を変える」を試している中で起きたと言う。
「鈴鹿8耐でジャックとアンドレア・ロカテッリが自分がセッティングしたそのマシンで自分が苦手としている区間を凄く速いタイムで走っていたのでそれをイメージして走ったところ、良い感じにまとまってきたなと感じていたところでした。ですが(転倒した)ヘアピンの区間ではまだそのイメージとリンクしていなくてハイサイドを喫してしまいました」
「タイムが2分5秒1まで出てきたので調子に乗っていたことも事実ですが(笑)」と笑っていたが、13度のチャンピオンを獲っても尚、探究心・向上心を持ち、自分に対して厳しい姿はここ10数年変わっていない。だからこそ13回もチャンピオンを獲れる位置にいるのだ。
今シーズンの全日本ロードレースは中須賀がチャンピオンを獲得した。当然来年も狙いに行く。それが中須賀克行と言うオトコ。しかしその道は険しいだろう。ドゥカティの水野涼、BMWの浦本修充、ホンダ若手の野左根航汰、岩田悟、と中須賀の前に立ちはだかる壁が幾重にも出てくる。彼らのバトルが全日本ロードレースを面白くする。来年はどんなドラマが生まれるのか、楽しみに待ちたいと思う。
全日本ロードレース第7戦 第57回 MFJグランプリ スーパーバイクレース in 鈴鹿 決勝レース2上位10位は以下の通り
1位:#3水野 涼 DUCATI Team KAGAYAMA
2位:#31浦本 修充 AutoRace Ube Racing Team
3位:#4野左根 航汰 Astemo Pro Honda SI Racing
4位:#8岩田 悟 Team ATJ
5位:#46阿部 恵斗 SDG Team HARC-PRO. Honda
6位:#14日浦 大治朗 Honda Dream RT SAKURAI HONDA
7位:#16渥美 心 YOSHIMURA SERT Motul
8位:#7 津田 拓也 Team SUZUKI CN CHALLENGE
9位:#9長島 哲太 DUNLOP Racing Team with YAHAGI
10位:#11関口 太郎 SANMEI Team TARO PLUSONE
Photo & text: Toshiyuki KOMAI


































