感謝の気持ちを忘れず、自分の信念を貫く、酒井大作選手の新たな挑戦

2014/04/01

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小指の先端が無くなった?!
BMW S1000RRを駆り、「Flex D.R.E Motorrad39」から全日本ロードレースに参戦する酒井大作選手。今回は酒井選手が2009年、ヨシムラスズキ在籍時代のエピソードから始まる。
酒井選手は最終戦で中須賀克行選手の前でゴールすればチャンピオン獲得するところまで来ていた。しかし、最終戦の前週、鈴鹿のテストで路面温度が想像以上に低くS字コーナーで転倒。起き上がり、骨折はしなかったことにホッとひと安心した直後、左手に激痛が走る。小指の先端が骨だけになっていたのである。急遽大阪の主治医に診たもらったところ全治半年を告げられる。翌週の最終戦レースどころではない。

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「先生、(指を)落としたらレースに出られるんか?」
 レース参戦を断念するように言われた酒井選手は驚くべき言葉を発する。「先生、こんな複雑な状態やからダメなんか?(この小指を)落としたらレースに出られるんか?だったら落としてくれや!」「来週のレースには何が何でも出なくてはならんねん!」酒井選手の尋常ではない覚悟を聞いた先生はレース出場のための最善の処置を施して送り出した。
ご存知の方も多いだろうが酒井選手は大阪でうなぎ屋さんを経営している。お店の従業員達は心配して「社長、なんでそこまでして出場するのですか?」と問いかけた。酒井選手は「自分ひとりで走っているわけではない、チームスタッフ、応援してくれるお客様、スポンサー、みんなの想いを背負って走っている。だから指の1本や2本なくしたくらいで走ることを止めることはできない」と、弱冠26歳の若者が言い放ったのである。

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チャンピオンを獲れなくて泣きじゃくる
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 迎えた最終戦鈴鹿。痛み止めを飲みながらの参戦した酒井選手。2ヒート制の最終戦は2回闘わなくてはならない。加藤陽平監督、辻本聡スーパーバイザー、チームスタッフに見守られ成長してきた。チャンピオンまであと少し、頂点に立ちたい。みんなに恩返しをしたい。様々な想いが過ぎる。レース1で3位表彰台を獲得するも中須賀選手が優勝したためタイトル争いはレース2にもつれ込んだ。迎えたレース2はウェットレースとなる。中須賀選手が酒井選手の2つ前にいる。自力タイトルを獲るには前を走る伊藤真一選手をかわさなくてはならない。しかし、伊藤選手をパスしようと攻めたときに接触、転倒を喫してしまう。その時点で酒井選手のタイトル獲得は無くなった。
 レース終了数時間後、ヨシムラのピットボックスにまだ酒井選手はいた。チームスタッフはもちろん関係者ひとりひとりに泣きじゃくりながら謝っていたのである。

勝つためのレースからバイクの素晴らしさを伝えるためのレースへ
 2012年、酒井選手はプライベートチームから参戦を決める。マシンもBMWにスイッチ。その年の第2戦鈴鹿2&4レース、酒井選手は周囲をあっと驚かせた。ほぼノーマルの市販車BMW S1000RRで金曜日に行われたフリー走行で2分10秒台を出したのである!ワークスマシン、メーカー系マシンがひしめく中で堂々のタイムだ。予選は転倒によりタイムは出なかったが決勝レースでは10位に入る快挙を成し遂げた。
酒井選手のこのパフォーマンスには鈴鹿サーキットにいらっしゃるたくさんのお客様はもちろん、レース関係者からも賞賛された。レーシングライダーだから勝負にこだわる。ワークスマシン相手にノーマルマシンでどこまで闘えるか、にも挑戦している。

「小さなプライベートチームが誰でも入手できるノーマルベースマシンで戦う意地と誇りをかけて自分の思いを全力でぶつけてやる」そんな思いで走っていると言う。

しかし酒井選手はノーマルマシンで上位進出を果たすことだけを目的としない。自分が実際に乗って、レースで闘って、感じた印象を「酒井大作自身のナマの声」でお客様に伝える、そのことがそのバイクの本当のパフォーマンスをアピールできるのでは、と考えたのである。乗っているのは市販ノーマルマシン。誰でも購入できることができるパーツで仕上げたマシンなのだから。

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感謝の気持ちを忘れず、自分の信念を貫く、それが酒井大作
 「レースは結果がすべてだとよく言われます。勿論、それも間違いなく重要なことです。しかし、僕はそれ以上にバイク界のエンターテイナーとしてオートバイファン、そしてレースファンのみなさんに伝えていきたいことがあるのです。人と人が繋がって何かを伝えていくことの素晴らしさを僕はレースを通じて伝えていきたい」「常に人に感謝の気持ちを忘れず、これからも自分の信念を貫いて生きていく」酒井選手はそう言う。
勝つことだけにこだわっていたレースから、バイクの本当の素晴らしさを伝える手段としてのレースへ。酒井選手は常に新たな挑戦をし続けている。自身がプロデュースするD.R.EでセットアップしたBMW S1000RRを駆ってワークスマシン相手にどこまで暴れてくれるのか、非常に楽しみである。

速報!2014年全日本ロードレースフル参戦&鈴鹿8耐参戦決定!
先日開催された第41回東京モーターサイクルショーで、全日本ロードレースフル参戦と鈴鹿8耐参戦が発表された。ドイツのBMW本社の要請とBMW Motorrad Japanのサポートを受けての参戦である。5年ぶりにゼッケン39番の酒井大作選手の走りを全戦で観られるのはファンにとって大きな楽しみとなった。

photo & text : koma

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