衝撃の引退発表を第53回東京モーターサイクルショー2026の「YAMAHA MOTORSPORTS MEDIA CONFERENCE 2026」で行った中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)
2026年がラストイヤーになることは本人から聞いていたがこのタイミングで発表するとは思わなかった。しかもコメント中に声を詰まらせる場面もあった。あの中須賀が?。。筆者もたまらず目頭が熱くなる。
中須賀に単独インタビューする機会をいただいたので紹介したい。
なぜ声を詰まらせたのか?
「発表前までは何ともなかったんよ。以前から(引退発表は)決まっていたし、話すことも考えていた。でも、ステージに上がって“引退”と言う言葉を発した途端、“あぁ、これで俺の人生が終わるんだ”と言う気持ちが急に込み上げて来て今までに感じたことない感情になってしまいました」
19歳で初めて全日本ロードレースGP250ccクラスに参戦してから今年で26年目。その間ずっと二輪レースのことだけ、イヤ、“どうやったら勝てるか”を常に考えてきた。人生の半分以上は二輪レースだ。
「バイクレースって自分の人生そのもの。存在して当たり前のものが無くなるなんて考えたことなかったです。他人から見たら“人生が終わるなんて大袈裟だ”、と思うかもしれませんが自分にとってはそれくらい大きなものを失うのです。二輪レースからの引退と言うことは」
本当はこっそり引退して姿を消したかった、このタイミングで発表した理由
次に疑問に思ったのが何故このタイミングで引退を発表したのか?
「本当は最終戦でシレーっと“引退します”と言って静かに姿を消したかったのです(笑)」
「でも、“え?中須賀引退したの?なんだよ、だったら今年レースを観に行けば良かった”と言う人がいるかもしれない。
“中須賀が引退?、じゃぁ、今年観に行くか”と言う人がひとりでも二人でも来てくれたら、と思いシーズン開幕前に発表しました。」
このタイミングは自分へのプレッシャーが増えるのでは?
「はい、それはわかっています。目の前の1勝だけを目指すだけでも相当の準備と集中力が必要です。それを10回繰り返してチャンピオンに繋がる。
そこに“引退宣言”と言う別ベクトルのプレッシャーが加わるので今まで一番難しいシーズンになると思います」
そこまでわかっていながら発表したのは「この位置(全日本のトップ)にいるライダーの役目だと思うから」とコメントした。ファクトリーライダー、全日本ロードレースを牽引するトップライダーとして果たすべき役割を認識していると言うことだ。
だから敢えて厳しい道を選び開幕前に発表した。そこまで自分を追い詰めるこの男の覚悟には敬服しかない。
2015年鈴鹿8耐:表彰台からの景色が忘れられない
ありきたりだが、一番嬉しかったレース、印象に残っているレースは?と聞いてみた。
「やはり、最高峰クラスJSB1000に上がって初優勝した2007年のオートポリスかな」地元九州で最高峰クラス初優勝は嬉しさも格別だった。そしてもう一つ印象に残っているレースがあると言う。
「2015年の鈴鹿8耐の優勝。表彰台のてっぺんからの景色、これは忘れられません。観た事のない世界に心から感動しました。」
「そしてファクトリーチームになったその年に優勝。チーム力が試される鈴鹿8耐で勝てたことでこのチーム力は素晴らしいと確信し、これからの勝利の道筋が見えた気がしました。」
鈴鹿8耐が印象に残っていたとは少し意外だった。それまでの中須賀は全日本ロードがメインで鈴鹿8耐は参加することに意義があると考えていた節があったが、表彰台のてっぺんから観た景色がどのレースよりも感動したと言う。ちょうど2015年からヤマハファクトリーが復活、マシンもYZF-R1がフルモデルチェンジ、ブランニューのマシンで優勝、と二重三重の喜びがあったと言う。
ブリヂストンタイヤとの相性
2012年からタイヤブランドをブリヂストンにスイッチした。ここから破竹の連勝記録が始まる。現代は「ブリヂストンでないと勝てない」と言われているが改めてどこが良いのか、聞いてみた。
「何と言ってもグリップ持続性ですね。みなさんご存知の通りグリップ力が高いのは当たり前。それが最初から終わりまで安定してくれます。これはライダーにとって心強い。
そしてライダーへのインフォメーションが的確。“今、これくらい削れている”“これくらい荒れている”が走りながら伝わってきます。その情報に合わせてライン取り、アクセル開度、走り方を変えています。」
中須賀クラスのライダーになると走行中にタイヤの“この部分(ライン)はこれくらい減っている、だから次はここの部分を使って走ろう”とミリ単位でタイヤの使う位置を変えているらしい。超人的過ぎて我々には理解できないが、そのためのインフォメーションが的確なので何が起こるかわからない決勝レース中でも瞬時に戦略変更が可能になると言う。
45歳の挑戦。レースに集中したい
「正直、体力的にキツくなって来てるんよ」「それでも44歳のチャンピオンって凄いと思わん?」
屈託のない笑顔で語る中須賀は現在94勝。今年100勝の期待がかかる。
「そりゃぁ、できれば100勝挙げたいですよ。でもそんな簡単ではない。ライバルたちが確実に速く・強くなってきています」「しっかりと準備をして、自分にできる最大限のパフォーマンスを発揮して走るだけです。そこに勝利が付いてくれば言うことありません」
「あ、、最後にいいですか」と中須賀。。
「引退発表は既にしたので、レースウィーク中は引退に関する質問はしないで欲しいです。レースに集中したいのです。そのことを記事に書いておいて(笑)」
中須賀克行45歳の挑戦。「こう見えてノミの心臓やけぇ(笑)」と、うそぶくが繊細な人間であることは間違いない。レースに集中できるように我々メディアも気を配り、その走りをしっかりと目に焼き付けたい。
Photo & text : Toshiyuki KOMAI


























