この日唯一開催された決勝レース:JSB1000クラスで中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)が独走で2連勝を飾った。2位には野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)、3位に自身初の表彰台を獲得した伊藤和輝(Honda Dream RT SAKURAI HONDA)が入った。
決勝日は朝から濃霧と強い雨。真っ白でほとんど見えない状況。予定されていたJ-GP3クラス、ST600クラスの決勝レースが中止になった。
JSB1000の決勝レースは行われるのか?やるのかやらないのかハッキリしない状態で待つのはライダーもチーム関係者もお客様も辛い。しかし次第に明るくなり霧も晴れてきた。但、路面は昨日同様ところどころウェットパッチが残る難しい路面コンディション。朝フリーがキャンセルされたので決勝前に5分間のフリー走行時間が設けられた。その時間で路面を確認・タイヤを決める。中須賀はレインタイヤで出て行ったが帰ってくるとドライタイヤに履き替えた。
いつまた濃霧が出るかわからない不安な状態の中14:20に12周によるレース2がスタートした。ホールショットは中須賀が奪う。野左根、津田拓也(Team SUZUKI CN CHALLENGE)、岩田悟(Team ATJ)、長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)と続いて1コーナーに進入する。第2ヘアピンで津田がハイサイドしかけてヒヤリとした。これはこのレースで苦戦する予兆でもあった。
オープニングラップは中須賀が制し、野左根、津田、長島、伊藤、鈴木光生(Team ATJ)、水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)と続く。
トップ中須賀と野左根は早くも3番手以降との差を開き始める。そして2周目の最終コーナーで野左根が中須賀のインを突いてトップに浮上する。しかし3周目の登りセクションで再び中須賀がトップを奪い返す。
「今日は12周と短いのでタイヤを全部使い切るつもりで序盤からプッシュするつもりでした。野左根選手に抜かれて後ろから見ていたら“思うように乗れていないのかな?”と思えたのですぐに抜き返して前に出ました」
トップに立ってからの中須賀のペースが速い。3周目に1分48秒台に入れると翌周には1’48.785のファステストをマークする。その後も48秒台を連発。みるみる野左根との差を広げ、最終的にはレース1同様7秒783もの大差をつけてオートポリス2連勝を飾る。中須賀の地元九州で勝つことを必須としてきた中須賀。昨日は安堵感が漂っていたが今日は嬉しさを全面に出していた。
「レースをやるのかやらないのか、がギリギリまで決まらず、ライダーとしてはコンセントレーションを保つことと気持ちの切り替えに苦労しましたが、地元の人たちの声援が力になりました。応援してくれた人たちのためにも勝つことができて良かったです。」
「昨日と同じ少し硬めのタイヤを選択しました。タイヤの荒れ具合とライフはレース1で確認できていたのである意味自信を持って12周でキッチリ使い切る、と決めてプッシュしました。リアにトラクションをかける部分にウェットパッチが残っていたりと難しいコンディションでしたが集中力を切らさず最後まで走り切れて良かったです」
一方の野左根。昨日の問題をチームが解決してくれてフィーリングは良かった。しかし序盤からトラブルが出てきて終盤にはコース上に留まっているのも難しい状況だった。ラップタイムを見ても中須賀に対して1.5秒くらい遅い50秒台後半。我慢のレースを強いられた。
「昨日の反省からリアサスペンションが動きやすい仕様に変更を行いました。それが功を奏してすごくフィーリングがよく、中須賀さんと勝負できるかなと思いました。しかし序盤からフロント周りのどこかが壊れたような振動の症状が出てきて終盤に向けてどんどん酷くなり、ピットインしようかなと思ったほどでした。」
「後続との差を見てコントロールしながら走ったのでなんとか2位に入れましたが悔しさの方が大きいです。
でもチームには感謝しています。バイクはどんどんアップデートしていますし今回もエンジンが一番走っていたと思います。次戦岡山ではもっと勝負できるようにしたいと思います」
セカンドグループにも動きが出る。2周目に長島が津田を仕留めて3番手に浮上、ここから長島がペースを上げる。その長島に岩田が追いつき接近戦を展開する。さらに伊藤、鈴木が加わり4台パックの3番手争いが始まる。
6周目の上り右コーナーで長島のインを突いた岩田、しかしその先のコーナーでアウトから被せて抜かせない。長島哲太の真骨頂だ。7周目の1コーナー、岩田も長島も深いブレーキングで止まれずリアタイヤを滑らせながら2台で進入するとアウトに膨らんだ長島のインから伊藤が立ち上がる。これで伊藤は4番手。セカンドグループのトップに立った岩田がアタマひとつ抜け出す。しかし8周目のホームストレートを白煙を吐きながら通過。エンジンブロー。
「昨日のレースは勝負を仕掛けて負けてしまいました。今日は序盤から仕掛けてしっかりと勝負できているという感触はありましたが、エンジンブローでリタイヤを余儀なくされて悔しいです。
メカニカルトラブルはライダーではどうすることもできず、いつまでも引きずっても仕方ないので気持ちを切り替えて岡山に臨みます。」
今年に入り、常に上位に食い込む好走を見せている岩田。表彰台まであと一歩と言うところまで来ていただけに残念である。
序盤3番手を走行していた津田のペースが上がらない。セカンドグループの中で5周目の第1ヘアピンで鈴木に抜かれて7番手に下がるとセカンドグループから脱落し後ろから児玉勇太(MARUMAE Team KODAMA)から突かれる。
「昨日と同じやや硬めのタイヤを選択しました。路面温度がさほど上がらなくても機能させられることを昨日のレースで習得したのである程度自信を持って臨んだのですが、路面コンディションが変わってしまいグリップしませんでした。」
「オープニングラップの第2ヘアピンでハイサイドを起しかけましたがそれが象徴的です。何回もハイサイドしそうになりまとも走らせることができず我慢のレースとなり悔しいです。周りのライダーは全員やや柔らかめのタイヤを履いていたことも敗因の一つです」
昨日表彰台に登る走りをしただけに悔しそうであった。
岩田がリタイヤして3番手に浮上した伊藤、全日本初表彰台獲得の期待がかかる。
「序盤からトップ集団について行きたかったのですが、長島選手が3番手に上がり4台のパックの中からどうやって抜け出そうかを考えていました。路面コンディションが昨日から変わってしまいフロントの挙動が大きくなっていたので走り方を考えながらひとりずつ抜いて行きました。」
「終盤、水野選手が後ろにビタビタでついてきましたがなんとか抑え切ることができました。昨日は表彰台に乗れるチャンスがありながら乗れなかったので初表彰台はすごく嬉しく思います」
昨年末から桜井ホンダに井筒仁康がアドバイザーとして加入した。速く走るために何が必要かを考える時に、伊藤が求めているものと、実際に必要なもの、チームが用意できるものがズレることが多いのでそこを井筒が調整している。「だから彼の中にジレンマがあったり、乗りづらかったりすることもあるかもしれません」と井筒。だが今年の伊藤は昨年よりも速くなり、上位争いにも絡めるようになってきた。それは考え方だったり、走らせ方だったりを自分の中ので解釈して変えているからだと言う。伊藤の今後に注目が集まる。
予選15番グリッドと言う信じられない位置からスタートした水野涼が気付けばセカンドグループ加わっていた。
そして伊藤の背後にピタリと付けて表彰台争いを展開するが一歩及ばず4位。だがこのウィークの流れからすれば別人のようなタイムの伸び方であった。
「昨日の夜、チームがマシンを全部バラして確認してくれました。決勝前のウォームアップ走行でフィーリングが良く、決勝レースがスタートしてから以前の感触に戻っていることが確認できました。」
「表彰台には届きませんでしたが終盤にベストの49秒4を出せるほどにまで回復しましたしあのまま終わらなくて良かったと思います。但、本来ここが事前テスト初日の状態だと思うので元に戻って良かったではなく、優勝するまでは何が原因だったのかを探りながら開幕戦の強さをもう一度見せたいと思います」
JSB1000がゴールした後に再び大粒の雨が落ちてきて霧も出てきた。その後予定されていたST1000クラスは中止となり、結局日曜日はJSB1000クラスしか決勝レースが行われなかった。まさにピンポイントで晴れた決勝日となった。
全日本ロードレース第5戦SUPERBIKE RACE in KYUSHU 決勝レース1 上位10位は以下の通り
優勝:#2中須賀 克行YAMAHA FACTORY RACING TEAM
2:#4 野左根 航汰 Astemo Pro Honda SI Racing
3: #9 伊藤 和輝 Honda Dream RT SAKURAI HONDA
4: #3 水野 涼 DUCATI Team KAGAYAMA
5: #30 鈴木 光来 Team ATJ
6: #10 長島 哲太 DUNLOP Racing Team with YAHAGI
7: #13 児玉 勇太 MARUMAE Team KODAMA
8: #7 津田 拓也 Team SUZUKI CN CHALLENGE
9:#29 新庄 雅浩 KRP SANYOUKOUGYO RSITOH
10: #32 中村 竜也 KRP SANYOUKOUGYO RSITOH
Photo & text: Toshiyuki KOMAI