やはりこのオトコは決めるべきところでキッチリ決める。中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)が優勝、前人未到の13回目の最高峰クラスチャンピオンを獲得した。2位には野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)、3位には長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)がダンロップで初の表彰台を獲得した。
前戦オートポリスの苦戦が嘘のような復活を遂げた水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)はウィーク初のドライセッティングを詰めきれず4位。しかし実りのあるウィークであった。JSB初体験ながら予選2番手を獲得した阿部恵斗(SDG Team HARC-PRO. Honda)は最後に転倒リタイアとなったものの存在感を示した。
決勝日は昨夜までの雨が残りウェット路面で朝のフリー走行を迎える。午後の決勝はドライ予想、このウィーク、ドライで走行していないのでドライで走行したいところだったが、各車ウェットタイヤで出て行った。トップタイムは水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)1分44秒台に入れ、2番手の長島に1秒以上の差をつけた。ウェットの調子は良いようである。
迎えた決勝レースはこのウィーク初めてのドライ。しかも真夏を思わせるような強い陽射しで気温27度、路面温度41度を超えた。各チーム初めてのドライ対策を余儀なくされる。
さらに、サーキット場内の急病人搬送のためドクターヘリを要請、出動するまでの間ディレイの通知が出る。中須賀はマシンに乗り込みコースインする直前にディレイの通知。コンセントレーションを高めた直後に待機するのはライダーにとって気持ちの切り替えが難しいところ。
結局当初予定から55分遅れの14:30サイティングラップ開始のアナウンス。週回数は変わらず24周でスタートした。
ホールショットは水野が奪う。長島、中須賀、阿部と続いて1コーナーに進入する。「ダンロップが良いタイヤを持ち込んだらしい」との噂がパドックを駆け巡った長島がオープニングラップから気を吐く。リボルバーコーナーで水野のインに切り込みトップを奪うとそのままオープニングラップを制する。
2周目のリボルバー、同じところで今度は中須賀が長島のインを突いてトップに躍り出る。「長島選手は事前テストからロングランをやって良いアベレージを刻んでいたのを知っていました。ですが自分もロングではタイムを持っていたので早めに抜いて自分のペースで走りたいと考えました」と中須賀。中盤から終盤まで後ろから様子を見ながらタイヤマネジメントを行い、チャンスと見たらトップに出て一気に引き離す走りが多い中須賀が2周目からトップに立つのは珍しい。
「長島選手、野左根選手、水野選手の集団の中にいると接近戦となり接触するリスクがあると考えました。であれば自分が前に出てペースを作れるなら作ろうと考えました。このレースで絶対に避けなくてはならないのは転倒です。」
トップに立った中須賀、3周目には早くも1分31秒台に入れ、9周目に1’31″318のファステストを叩き出すと後続との差をみるみる広げ、ただ一人31秒台で周回して独走体制を築く。
「ウェット路面だったら表彰台狙いで行こうと考えていました。水野選手が速い。しかしドライになりましたし、J-GP3クラスで尾野弘樹選手が優勝してチャンピオンを決めたので、ここで決めなくては、と思いました。ある意味それがプレッシャーでしたね」
勝ってチャンピオンを決める、以前の中須賀ならそこに拘っていたが今回は「チャンピオンを獲る」ことに集中した。だから雨だったら表彰台狙いと考えた。中須賀らしからぬコメントだが「チャンピオンを獲れる人間はひとりだけ。そこに誇りを持ちたい。記録に残る仕事をしたい」。ここ数年で中須賀は変わったと思う。「大人になったのですよ」と笑って言う。
ファイナルラップの24周目に入ったところでMCシケインで阿部が転倒、コース上にマシンが残ったため赤旗中断。22周目時点の順位でレース成立となり、後続に13秒以上の大差をつけて中須賀が優勝。13回目のシリーズチャンピオンを決めた。
2番手争いは長島、野左根、水野による3台のパック。長島が速い。序盤プッシュしてトップ争いに絡むが中盤以降ペースが下がるレースが多かったが、野左根・水野と同じ32秒台前半で周回を続け6周目に1’32″036のベストラップをマークする。
「もてぎからダンロップタイヤが進化してきました。ウォームアップ性の良さ・序盤のプッシュだけでなくグリップ持続性も発揮できるようになっています。荷重をかけてドライブさせたり、立ち上がり時のトラクションでもロスすることがなく勝負できていると思います。」
「もちろんコーナー進入時のスライドなどは自分でないとコントロールできない部分もありますが開発が進んでいけば誰でも操れるタイヤができると思います」と長島。
長島の後方から追いかける野左根と水野だが水野が遅れ始める。11周目のラップタイム、水野:1’32″766、野左根:1’32″348。これで2番手争いは長島と野左根の一騎打ちとなる。
岡山もウェットも得意だと言うが予選まで今ひとつ伸びなかった野左根。
「得意だったはずのウェットで初日からタイムが伸びず、第1ヘアピンで激しく転倒してしまいメインカーを壊してしまいました。そこからリズムを作ることができず予選もQ2ギリギリで通過できる状態でした。
今年からトライしているバイクの作り方が少しピンポイントになって難しくなっていますので得意のはずだったウェットセットの合わせ込みが難しかったのかな思います」
12周目に1’31″981のベストラップを刻み32秒台前半で長島を追う。16周目の第1ヘアピンでアウトから被せて長島の前に出るがその先のパイパーコーナーで鋭く突っ込まれて3番手。野左根の激しいプッシュを長島が防ぐテール・トゥ・ノーズのバトルが続く中、22周目の第1ヘアピンで長島のインを突いて野左根が2番手に浮上、ファイナルラップの赤旗中断で2位野左根、3位長島となった。
「スタートでローンチシステムが作動せず得意としているスタートダッシュが決められなかったのが誤算でした。中須賀選手についていきたかったのですが、このウィーク入って初めてのドライでセットを含め詰め切れることができず、付いていくことができませんでした。その後は2位狙いに切り替えて長島選手を追いかけました。前に出て引っ張ることも考えましたが今日の自分にはそのペースがありませんでした。
トラブルや転倒にもチームはすぐに対処してくれて本当に感謝しています。マシンもトライアンドエラーを繰り返しながら確実に進化しています。チームへの感謝の意味も込めて最終戦では勝ちを狙っていきたいと思います」
3位には長島。昨年から始めたプロジェクト2年目で初表彰台。ゴール後、長島の両脚の太腿内側が攣っていた。それほどフィジカル的に厳しいレースであった。ここまでの苦労、感謝、これから、様々な思いが交錯して涙した。それほど厳しく、そして嬉しい表彰台であった。
「進入スライドの押さえだったり、立ち上がりだったり、ライダーが頑張ってトラクションをかけなくてはいけませんでした。フィジカル的にはそこが厳しかったです。ですがここまで頑張ってきてダンロップ、チームスタッフへの感謝の気持ちでいっぱいです。そしてここからがスタートです」
4位には水野。「ドライでのセットを詰める時間がありませんでした。結果だけを求めるならばウェットレースの方が良かったと思います。勝てる自信はありました。ですが今回ドゥカティ・コルセ ファクトリーチームからエンジニアのおかげでウェットにおけるマシンのフィーリングが飛躍的に良くなりました。ドライでしか確認できないことがあるのでドライで走りたかったです。そう言う意味ではぶっつけ本番のドライレースでしたが走れて良かったです。
やはりドライで走ってみないと見えなかった課題も出てきました。これからデータを見てエンジニアと共に最終戦鈴鹿までにできることを詰めていきたいと思います。」
「当然4位と言う結果は悔しいですが、ウェットのまま勝ったとしても今のようなポジティブな気持ちにはなれなかったと思います。大切なのはこれからです。最終戦までに課題をクリアして昨年同様、2連勝で今シーズンを締めくくれたら嬉しいです」
負けたら悔しくて仏頂面をすることが多い水野だが今回はスッキリとしていた。それくらい今回の世界チャンピオンチームのエンジニア来日は水野にとってポジティブであった。わずか3日間で、現状の課題、ブリヂストンタイヤの特性、レースウィークの進行、など全日本ロードレースのフォーマットを理解して、セッションの進め方までアドバイスがあったと言う。「このセッションはこの課題について検証したい。ライダーはこことこれを確認して欲しい。良ければA、悪ければBで行こう」と迅速かつ明確な指示が出てくるのでライダーは余計なことを考えず確認することだけに集中できるので効率が良い、と言う。
5位には津田拓也(Team SUZUKI CN CHALLENGE)ウィークの走り出しから上手く回らなかったと言う。
「事前テストはパーツテストがメインとなりセットを詰めるまでの時間がありませんでした。ウェットコンディションには自信があったのですがウィークの走り出しからタイムが伸びませんでした。
決勝レースはドライでした。ドライになればペースは戻ってくるのですが前を走る阿部選手を抜くのに時間がかかってしまいました。ホンダ車とスズキ車では速いところ・遅いところが違うのでなかなか抜くことができませんでした。自分に野左根選手くらいのペースがあればもっと前を目指せたかもしれませんが今回は5位が精一杯でした」
代役参戦で脚光を浴びた阿部恵斗。レース序盤は5番手争いグループのトップで集団を引っ張った。しかしJSB初参戦。事前テストでもドライの走行時間は短くロングも実施していない中でぶっつけ本番に近い決勝レースとなった。「やはり何百時間も走行している JSBライダーたちの中にたった数時間乗っただけのライダーが入って表彰台を獲得できるほど甘くはないですね。タイヤが垂れてきてからバイクを抑えるのにものすごく体力を使いました。レース運びから走らせ方まで全てが勉強になりました。」
「最後はMCシケイン立ち上がりでマシントラブルが発生してハイサイドのような状況で転倒してしまいました。赤旗の原因となってしまって申し訳ない気持ちです。」
JSBマシンにポンと乗って予選2番手を獲得した阿部のポテンシャルは十分にアピールできた。アジア選手権に参戦している今シーズン、ぜひチャンピオンを獲得してほしい。
全日本ロードレース第6戦SUPERBIKE RACE in 岡山 決勝レース1 上位10位は以下の通り
優勝:#2中須賀 克行 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
2:#4野左根 航汰 Astemo Pro Honda SI Racing
3:#10長島 哲太 DUNLOP Racing Team with YAHAGI
4:#3水野 涼DUCATI Team KAGAYAMA
5:#7 津田 拓也 Team SUZUKI CN CHALLENGE
6:#9 伊藤 和輝 Honda Dream RT SAKURAI HONDA
7:#30鈴木 光来Team ATJ
8:#8岩田 悟 Team ATJ
9:#16渥美 心 YOSHIMURA SERT Motul
10:#24 星野 知也 TONE Team4413 BMW
Photo & text: Toshiyuki KOMAI