「負けを認められるようになった」水野涼が最後の一瞬で掴んだ7連勝。長島哲太、あと0.100秒

2026/08/30

17周で争われたJSB1000 Race2。チェッカーまで残り1周になっても、誰が勝つのか分からなかった。

スタートでホールショットを奪ったのは#88水野涼(SDG DUCATI Team KAGAYAMA)。#4 野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)、#92國井勇輝(SDG Team HARC-PRO. Honda)、#45 長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)、#1 中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)と続く。長島は積極的に仕掛ける。S字二つ目で國井のインに飛び込み3番手に浮上する。「序盤の速さには自信があるので最初に前に出てレースをコントロールしたいと考えていました」

オープニングラップは水野が制し、野左根、長島、國井、中須賀の順にコントロールラインを通過する。2周目の1コーナー、野左根が水野に追突しそうになった隙をついて長島が2番手浮上すると、V字コーナーで半ば強引に水野のインを刺すとトップに浮上。その瞬間から、長い一騎打ちが始まった。

長島は速かった。

2周目に1分48秒218、3周目1分48秒232、5周目1分48秒158。対する水野も食らいつくが、6周目に1分47秒991、7周目1分47秒984と自己ベストを更新しても長島を抜くには至らない。9周目に水野が1分47秒728のファステストラップを記録するが、長島も1分47秒802をマーク。ほとんど差がつかない。

後続をブッチ切るどころか前に出られない。水野にとって今シーズン初めての展開だった。「本当に余裕がなくて、最後まで全然仕掛けられませんでした。ついていくのもいっぱいいっぱいでした」金曜日のロングランより速いペースで走っている。それでも前を行く長島の方が速い。差を広げられる場面もあった。

一方の長島。水野を相手にして逃げきれないことはわかっていた。それでもラップタイムを上げたり緩めたりと揺さぶりをかけてみた。それでも反応して付いてくる。やはり水野は一筋縄ではいかない、と改めて痛感。

長島を抜きあぐねていた水野は「無理に追えば転ぶかもしれない。これで転んでノーポイントだけは避けなくては、と思いました。転ばずにマックスで行けるところまで行こうと思いました。それで2位だったら良しとしようと思いました」

一戦の勝利よりも大切なのは、シーズンを通してチャンピオンを獲ること。勝てるレースもあれば、勝てないレースもある。長島の方が速いのなら、今日はそれを認めればいい。

「負けたとしても、それは相手が自分より速かったって割り切れるというか、認められるようになったのだと思います」

昨年までの水野だったら負けたくない一心で空回り、それが原因で転倒するリスクもあった。今シーズン開幕から水野は静観できるようになった。本人曰く「大人の階段を登っているのですよ(笑)」と言うが、何が何でも目の前の勝ちを狙うと言う考えがなくなった。だから肩の力を抜いてリラックスして冷静でいられる。昨日のRace1で水野の後ろを走った野左根が「今までの涼じゃない」と言ったことがここにも現れている。

長島は金曜日に「戦えるところまで来た」と話していた。DUNLOPとのプロジェクトが始まって3年。「なんでダンロップなの?」と言われるところから始まり、一歩一歩開発を続けてきた。そしてようやく、王者を相手にレースをリードできるところまで来た。

「もてぎはダンロップの強みを生かせる部分もあると思っていたし、自分としては優勝のチャンスがあると思っていたので、夏もしっかり準備してきました」

驚くべきことに終盤にスパートをかけた。1分48秒台でラップしていたが15周目、1分47秒918。16周目、1分47秒992。これまでなら終盤にタイヤが厳しくなっていたが、最後に47秒台に入れた。これには場内騒然。

なぜタイムを上げられたのか。長島を支えるメカニックの高橋氏は、こう話した。
「これまでグリップしない、止まらない、曲がらない、加速しない状況の中で、長島は「どう止めるか」「どう曲げるか」「どう加速させるか」の試行錯誤を徹底的にやり続けてきました。その苦しい時間の中で身につけた技術に、進化したタイヤがようやく追いついてきました。ライダースキルも上がっているけど、タイヤの能力も上がってきている。その相乗効果がここにきて出ています」苦労してきた時間が、ようやく武器になった。

そして迎えたファイナルラップ。水野は、勝負すると決めていたわけではなかった。「仕掛けようにも仕掛けどころがありませんでした」

その水野にチャンスが来た。5コーナー進入で水野が飛び込んだ。しかし長島も抜き返す。その先のV字。長島は水野を抑えるためイン側を締める。しかしブロックラインを取ったことで、立ち上がりの加速がわずかに鈍った。水野は通常のラインから立ち上がった。

「ワンチャン来た!と思いました」
ドゥカティの圧倒的な加速を活かしてヘアピンでインに飛び込みトップに立つ!2台は並んでダウンヒルストレートから90度コーナーへ。水野が前、長島もアウト側から最後まで抵抗するが水野がトップチェッカー!長島との差は、わずか0.100秒だった。

水野はこれで開幕7連勝。しかし、今回の勝利はこれまでとは違った。
速さで相手をねじ伏せた勝利ではない。
「絶対に勝たなくては」と思わなかったから転ばなかった。
相手の速さを認めたから冷静でいられた。
そして諦めなかったから、最後の一瞬のチャンスを掴めた。

「例えそのまま負けても、今回は長島選手が速かったって思えました」と話す水野はひと回り大きくなったように見えた。

一方、敗れた長島はチェッカー後、悔しさに涙を見せた。「全部かけてやって負けたので、仕方ないかなとは思いますが。。」と悔しさを隠せない。

反面「最終的に水野選手はうまかったですし、強かったです。完敗です」と認めた。「長島哲太だからできる」と信じて始まった挑戦が、ついに水野涼を最終ラップまで追い詰めたのだ。これは大きい。

3位には國井勇輝が入った。序盤は中須賀に先行を許したが7周目にパスすると中須賀を抑えて走り切った。

國井はこのウィークで乗り方を変えることにトライしていた。「金曜日の2本目のロングランの中でいろんな身体の使い方を試していくうちに、こうすればいいのかなというのが自分の中で見つけられました。それがタイムにも繋がり、自信にもなりました」

今回の好調を裏付けるコメントがあった。
「今までは走っている時に「何故(ダメ)なんだろう?」って思っていたのですが、このウィークは「こうしよう、ああしよう」 って走りながら考えるようになりました」ポジティブに考えるようになったことがプラスに動き、タイムにも現れた。驚くべきはそれを今回のレース中にも実践したことだ。

「中須賀選手の後ろを走りながらラインや身体の使い方を観察し、「こうすればもっと良くなる」と思って自分の走りに取り入れたらペースが上がりました」。そのおかげで野左根にも追いついたと言う。

「結果の3位よりも、内容的にすごく濃かった。今シーズン初めてここまで手応えのあるレースができました」Race1で得た「イケる」という自信が、Race2ではさらに“学びながら速くなる”という次の段階へ進んだ。

4位は中須賀克行。

「勇輝にもついていけんかった」と悔しさを隠し得ない。新しくなったもてぎの路面に対してパワーをうまく伝えられない課題を最後まで解決できなかった。
それでも、「いい時もあれば悪い時もある。自分もずっと勝ち続けていた時期もありました。今は勝てない時期にいる。それがレースです。でもチームスタッフもみんな一生懸命考えてくれているし、まだまだ諦めていませんよ」

そして最後はいつもの中須賀らしく、「次に向けてまた準備し直してやるだけです」と心強く語った。

Race1で2位だった野左根は、終盤まで表彰台を争ったものの、國井に抜かれたあと再び仕掛けようとした際、4コーナー立ち上がりでマシンが振られた影響で5コーナーで止まりきれずオーバーラン。それでも転倒を免れ、9位でチェッカーを受けた。

もてぎで見せた、水野と長島の17周。
金曜日に「戦えるところまで来た」と言った長島哲太。
土曜日に「今までの涼じゃない」と野左根航汰に言わせた水野涼。
その二人が日曜日、最後の最後まで戦い、その差は僅か0.100秒。
このRace2は記憶に残るレースになった。

全日本ロードレース第5戦 SUPERBAIKE RACE in MOTEGI ART合同走行 決勝レース2のTOP10は以下の通り

優勝:#88 水野 涼 SDG DUCATI Team KAGAYAMA
2位:#45 長島 哲太 DUNLOP Racing Team with YAHAGI
3位:#92 國井 勇輝 SDG Team HARC-PRO.Honda
4位:#1 中須賀 克行 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
5位:#95 西村 硝 S-SPORTS SUZUKI
6位:#85 津田 拓也 Team SUZUKI CN CHALLENGE
7位:#10 鈴木 光来 Team ATJ
8位:#6 岩田 悟 Team ATJ
9位:#4 野左根 航汰 Astemo Pro Honda SI Racing
10位:関口 太郎 SANMEI Team TARO PLUSONE

Photo & text:Toshiyuki KOMAI