“プロライダーとして生きて行く” 覚悟を決めた亀井雄大のヨシムラ移籍

2023/01/23

“プロライダーとして生きて行く” 覚悟を決めた亀井雄大のヨシムラ移籍

2023年1月15日。衝撃の参戦体制発表があった。Honda Suzuka Racing Team亀井雄大のヨシムラ移籍。亀井と言えば生粋のホンダライダー。誰もが驚いた。

2022年12月、渡辺一樹のヨシムラ離脱が正式にリリースされた。中須賀克行を追い詰めた唯一のライダーと言って良い渡辺の離脱も驚きを持って伝えられた。チームマネージャーである加賀山就臣の元には「来年どうするの?」と言う問い合わせがひっきりなしに来たという。

その加賀山が選んだのが亀井雄大だ。選ばれた亀井も驚いた。「来季(2023年シーズン)もこの体制(Honda Suzuka Racing Team)で走ります」と関係各所に挨拶したわずか2週間後に連絡があったと言う。

ライダーとして走るのは2023年シーズンまで

リモートで亀井に改めて移籍について聞いてみた。取材当日に「明日自分の結婚式なんです」と打ち明けられ、そんな超多忙な時に申し訳ないことをしてしまった。
翌日に結婚式を挙げた二人。おめでとうございます!いつまでもお幸せに。
(亀井と奥様からの了承を得て写真を掲載しています)

加賀山からは12月上旬に電話があった。驚きながらも意外と冷静だった。「“あのヨシムラから?”と驚きはありましたが即答することはできませんでした。本田技研での生涯設計は見えていたし、結婚したばかりで家族を守ることが第一義でしたのですぐにフリーランスになることはできないと思いました」

加賀山も同じだ。安定した収入がある亀井をライダーとして生活させていくだけのバックボーンを作らなくては、と考えていた。

亀井は本田技研工業株式会社:鈴鹿製作所に務めるサラリーマン。レースがやりたくて「オートバイ部」の門戸を叩き現在は部長を務める。レースはオートバイ部の活動の一環。(Honda Suzuka Racing Teamと亀井雄大の取材記事はこちら)ライダーとして走るのは今年までと決めていた。オートバイ部として参戦する以上、戦績はもちろんだが”人材育成”が第一命題。いつまでも自分が走っていては後輩が育たない。来年からはサポートにまわるつもりだった。

プロライダーとして走る

加賀山は亀井を迎え入れるために尽力した。バイクのトータルサポートショップ“モトフィールドドッカーズ(MFD)”を全国に展開する株式会社ワースワイルの岡本章弘会長に亀井の受け入れを打診。さらに、用品メーカー各社に「プロライダー亀井雄大として契約」できるように動いた。

「今年でライダーとして走るのは最後と思っていましたが、走れる環境にあるならもちろん走りたい。加賀山さんには本当に良くしてもらいました。その時点では生活のことではなく、ライダーとして生きて行く上で後悔したくないと言う思いが強くなりました。」

結婚したばかりの亀井。奥様は当初戸惑ったそうである。だが加賀山が作る新しい環境、そして亀井のライダーとして生きたい、と言う気持ちを理解して背中を押した。「この機会を逃したくない、ライダーとしてもう一度チャレンジしたい、と言う気持ちを理解してくれました」と奥様への感謝に堪えない。

亀井は本田技研工業を退社、ヨシムラのライダーとして、そしてプロライダーとして生きて行く覚悟を決めた。この春には神奈川県に移住する。

応援の声

退社すること、ヨシムラに移籍することを鈴鹿製作所に報告したところ快く送り出してもらえたと言う。オートバイ部の部長として後輩の育成、チームとして今後の活躍を期待されていたところで亀井が辞めるのは会社にとって痛手のはず。風当たりは強いのではと思っていた。しかし鈴鹿製作所の所長は「ホンダの公式野球部からプロ野球選手が生まれるようなものだ」と喜んでいたそうである。鈴鹿市内の関係各者も皆一様に「応援してます!」と送り出した。

加賀山にもできなかったことをやっている亀井

加賀山にもリモートで聞いてみた。「パドックで見かけることが少なくて正直、印象が薄いな(笑)と思っていました」「2022年、ピットが隣になることが多くて目に入ってきた状況を見て驚きました。全部一人でやってる。マシンの整備、次の走行の準備、マシンセッティング、そして電子制御のマッピングの解析と打ち込み、、そりゃぁパドックで見かないわけだ、ピットから出られないんだから」

加賀山はオートバイの技術的なことも深く理解し、セッティング指示、チームの体制作り、メーカーやパーツメーカーとの交渉など全て一人でこなせる知見とスキルを身につけている。「だけど自分で作業はしなかったんだよね。でも亀井は作業まで自分でやっていた。俺ができなかったことをやっている。そこに心が動かされました」

「あのレベルで自分で作業できるライダーは世界を見渡してもいないだろう」と言う。

ノーと言えるライダー

亀井と加賀山は幾度となく話した。亀井のオートバイに対する考え方、レースへの向き合い方、限られた時間、パーツの中でどういう考え方で臨んでいるのか、などを聞いて行くうちに加賀山の気持ちが傾いていった。「マシンセッティングや作業に費やす時間を走りに振り替えたらもっと速くなる。伸び代はまだまだあると確信しました」

そして話して行くうちに亀井の負けん気の強さにも気づく。「あんなあどけない顔して大の負けず嫌いで頑固」決して自分を曲げないし納得のいかないことには“NO” と言えるのが亀井。「今の時代、メーカーやパーツメーカーに堂々とNOと言えるライダーは少ない。でも走っているのはライダーなんだから納得いかないならNOと言わなくちゃダメ。そう言う意味では俺と亀井はぶつかる事も多いと思う。でもそれは建設的なぶつかり合い。結果的に前に進むことになる」

中須賀克行に勝負を挑みたい

亀井はずっと中須賀を追いかけてきた。今(Honda Suzuka Racing Team)のマシン、チーム、そしてライダーのポテンシャルでは中須賀に勝負を挑むところまで達していないのは重々わかっている。でも目指すところは常に中須賀。レース序盤だけでも中須賀と絡めたらと予選で良い位置を狙っていた。

今シーズンも目指すのはもちろん中須賀だ。でもそう簡単ではないことは亀井も加賀山もわかっている。「シーズン序盤は苦戦すると思います。でも鈴鹿8耐を終え、後半戦からは中須賀選手とのバトルに絡めたらと思います」と亀井。「レースやオートバイに対する向き合い方と結果は別。今の亀井はフィジカル、レース展開を含めてやるべきことがまだまだたくさんある。中須賀選手との勝負はそれから」と加賀山。

だが二人とも目指すところは同じ。打倒:中須賀克行。今シーズンのヨシムラと亀井・加賀山の戦いに熱い注目が注がれるだろう。

亀井の公式サイトが立ち上がった。プロライダーとして活動するための第一歩としてスポンサー支援を募っている。お手軽な金額で設定されているのでぜひ一度ご覧いただきたい。

https://t.co/807OeguZkp

Photo & text : Toshiyuki KOMAI
写真提供:ヨシムラジャパン株式会社