浦本修充(AutoRace Ube Racing Team)の速さは本物だ。危険な暑さの中のレース2を独走で優勝!2連勝を飾る。中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)は悔しい2位。水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)が表彰台に戻ってきた。
本当に暑いもてぎ。JSB1000クラスがスタートする14時の気温は34.5度、路面温度60度を超え、立っているだけで汗が滴り落ちる。そんな酷暑の中で昨日より5周多い20週のレース2が14:25にスタートした。
ホールショットは野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)が奪う。中須賀、津田拓也(Team SUZUKI CN CHALLENGE)、岩田悟(Team ATJ)が続く。8番グリッドの長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)がロケットスタートを決めて3コーナー進入で3番手に浮上すると5コーナー進入でも中須賀をかわして2番手に浮上する。さらにその先の130Rで野左根をもパスしてトップに浮上!そのままオープニングラップを制する。この長島がある意味レース2のキーマンとなる。
長島、浦本、野左根、中須賀、津田、水野、岩田、名越哲平(SDG Team HARC-PRO. Honda)、伊藤和樹(Honda Dream RT SAKURAI HONDA)、鈴木光来(Team ATJ)の上位10台。
2周目のV字コーナー、浦本が長島のインを突いてトップに立つ。浦本は長島が前に出たことで作戦を変えた。「長島選手が飛び出してきたので早めに抜いて自分のペースで走ろうと考えました。失礼な話かもしれませんが、長島選手に後続をかき乱して欲しいと考えました」
浦本はレース中盤以降ラップタイムペースが下がる長島が後続グループのフタをすることを期待した。
その長島のペースが良い。3周目に1’49.362のベストをマークすると49秒台を連発、トップグループと同じタイムでラップを重ねる。野左根、中須賀、水野たちはなかなか長島を攻略する事ができない。
5周目に中須賀が動く。ヘアピンで野左根のインを突いて3番手に浮上、続く6周目のS字の立ち上がりが少し鈍った長島のミスを逃さず一気に前に出て2番手に浮上する。
「浦本選手のペースに追いつくにはもっとスピードが必要なのでいろいろ試してみたのですが上手くはまらない。だから一種の賭けですがタイヤを少し柔らかいものに変えました。この高い路面温度なのでどうしても硬めに振っていましたが昨年ここで51度の路温の時に今より速いタイムで走れていたので戻って見るのも手かなと、チームで話し合って決めました」
「朝フリーではなく決勝レースで変えました。ぶっつけ本番です。でもそれが当たりました。やはりフィーリングが若干違うので序盤慣れるのに時間がかかりましたがその後は昨日よりも良いペースで走れました」
2番手に上がった中須賀だがその時点で前を走る浦本とは3秒以上の差が開いていた。
浦本のペースが下がらない。3周目に1’49.072のファステストをマークするとずっと49秒前半から中盤のタイムで周回を重ねる。最高峰クラスでトップを独走した事が少ない浦本、闘う相手は自分だ。しかもこの酷暑。体力的にも精神的にも厳しい。
「とにかく暑くてペースを維持するのが難しかったです。散々走ったのでもう終盤だろうと思ってサインボード見たら残り12周と出ていて心が折れそうになりました」
そう思うくらいこの暑さは堪える。だが驚くことに浦本は終盤の15周目49秒3をマークしてタイムアップをした。しかもその後も49秒前半でラップする。独走しているからキープの走りをしても良いのに終盤のペースアップ。並大抵の精神力ではない。決勝後の記者会見でも2連勝の嬉しさを表現するより疲労の方が上回っていて少し朦朧としているようにも見えた。
「簡単そうに走っているように見えたかもしれませんが結構いっぱいいっぱいで走っていました。90度コーナーでは2・3回飛び出しそうになりましたしミスも多くありました。他の人がどんなタイヤを履いていたのかわからないのですが自分はハードコンパウンドをフロント・リアに履いていてそれが今回は効いたのかもしれません」
浦本強靭な精神力と体力で終盤に入ってもタイムが落ちることなく2位の中須賀に6.5秒の大差をつけて2連勝を飾った。この速さは本物と言って良いだろう。
浦本はEWC世界耐久選手権「ボルドール24時間」に参戦するため次戦オートポリスと岡山を欠場する。この良い流れでボルドール入りして結果を残して欲しい。
2位には中須賀。結果的には差がついてしまったが、昨日のように後半に向けてタイム差が開くことはなく同じタイム差で周回していた。
「昨日よりも厳しいコンディションの中でレース1よりもタイムを落とさず走れたことは良かったですし、レース2を走ってみての収穫もあったので価値あるレースだったのかな、と自分では思っています。昨日みたいに後半離されることなく”差が開かない“と言うプレッシャーを少しは与えられたかなと思っています。
勝てなかったのは非常に悔しいですが良い時もあれば悪い時もあります。良い時には勝ち切り、悪い時にいかにリカバリーしてその順位を死守するかが重要になります。今日のレースも浦本選手が速かった。その事実はしっかりと受け止めて、次戦のレースに活かしたいと思います」
長島、水野、野左根、津田による3位争いが注目された。中盤に入っても長島のペースが落ちない。世界で鍛えられたテクニックは水野、野左根を持ってしてもなかなかパッシングできない。
10周目のV字コーナーで津田がコースアウト・転倒を喫する。コーナー進入時にギアがニュートラルに入るトラブルが発生、前にいる野左根との接触を避けるために自らコースアウト、グラベルに足元をすくわれて転倒。幸いダメージは少なくコース復帰したが表彰台争いから脱落してしまった。
野左根もペースが鈍くなり10周目には1分51秒台、前との差が開く。ここから長島と水野のテール・トゥ・ノーズの激しい一騎打ちが始まり延々15周目まで続いた。14周目の5コーナー進入、水野が長島のインを突いて3番手浮上、しかしS字で接触ギリギリのところで長島がインをこじ開けて抜き返す、15周目、同じ5コーナー進入で水野がパス、だがクロスラインをかけて長島が130Rで抜き返す。
直線の速さを活かしダウンヒルストレートで水野がパッシング、長島はその先のビクトリーコーナーでアウトから被せるがここは水野の勝ち。息つまるバトルはこれで勝負がついた。水野は16周目に1’49.108のベストラップをマーク。これは中須賀よりもコンマ4秒速い。驚くことにここからずっと49秒台でラップを続ける。そのまま3位でチェッカー。長島との差は8秒に開いていた。
「ここまで(表彰台に)戻ってこられたことは素直に喜びたいと思います。終盤にペースを上げられるだけのポテンシャルを持っているし見せられたのはポジティブですが、3番手に浮上するまでに時間がかかってしまいました。その点は反省点ですし課題です」
「今回やや柔めのタイヤを選択したのですが、路面温度の高さとコンディションにマッチしなくてネガティブな部分が出てきました。それも敗因のひとつです。ウィークを通じて硬めのコンパウンドに合うセットを見つけられませんでした。そこも課題ですね」
レース後、パルクフェルメに戻ってきた水野はなかなかヘルメットを取らずバイクからも降りなかった。その理由を聞いてみた。
「悔しくて悔しくて、レース直後でなければ考えられないことを考えていました。反省の多いレースでした。
今年2年目。データもある程度揃ってきた中で今回BMWに全く太刀打ちできなかった。今後の取り組み方も考えていかなくてはならないと思っています。開幕戦のあの速さを早く取り戻したい、そのためにチームと話し合って考えていきたいと思います」
4位は長島。15周に渡り表彰台争いを展開した。しかも前を譲らずに。
「ダンロップが良いタイヤを用意してくれました。そこが一番の要因です。ダンロップは暑さに弱いと言われてきましたが60度を超えるような路面温度でもしっかり機能しましたし、最後まで保たせることもできました。
マシンもチームが進化させてくれてドゥカティと遜色ないタイムで回ることができました。しっかりとしたタイヤが用意できればここまでのパフォーマンスを魅せることができるんだ、と証明できたと思います。」
表彰台争いをしていた野左根は17周目にスローダウン。ハンドルが折れたため後続のライダーの安全を考えて自らピットインした。遠因のひとつとしてエンジンの振動とのこと。今回スペックを変えたエンジンを持ち込み今までとは違う振動は感じていたらしい。ポールポジション獲得の速さをみせ、レース2でも5番手を走行するパフォーマンスを見せていただけに残念である。次戦オートポリスに期待したい。
全日本ロードレース第4戦SUPERBIKE RACE in MOTEGIART 合同走行上位10位は以下の通り
優勝:#31浦本 修充 AutoRace Ube Racing Team
2位:#2 中須賀 克行 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
3位:#3 水野 涼 DUCATI Team KAGAYAMA
4位:#30 長島 哲太 DUNLOP Racing Team with YAHAGI
5位:#8 岩田 悟 Team ATJ
6位:#6 名越 哲平 SDG Team HARC-PRO. Honda
7位:#9 伊藤 和輝 Honda Dream RT SAKURAI HONDA
8位:#30 鈴木光来 Team ATJ
9位:#11 関口太郎 SANMEI Team TARO PLUSONE
10位:#13 児玉 勇太 Team Kodama
Photo & text: Toshiyuki KOMAI