史上初!外国大使館公邸でDUCATI Team KAGAYAMA参戦体制発表会

2024/02/18

前代未聞のニュースで我々の度肝を抜いてくれる加賀山就臣がまたやってくれた。恐らく国内では初、外国大使館公邸:イタリア大使館で参戦発表会を開いた。しかも、マシンは2023年ワールドスーパーバイク(WSBK)世界チャンピオン:アルバロ・バウティスタのDUCATI パニガーレVR4、そう、正真正銘のワークスマシンである。ライダーは水野涼。チーム名はDUCATI Team KAGAYAMA。全日本ロードレースと鈴鹿8耐を戦うと発表した。

パオロ・チャバッティ氏へ想いを伝える

自身のレースデビューから33年間ずっとスズキ一筋で戦ってきた加賀山だが意を決してDUCATIを選んだ。理由はただ一つ「勝つため」。この話が決まったのにも加賀山の過去の活動・活躍があったからであった。

「ワールドスーパーバイクで世界を転戦している時にトロイ・ベイリス選手と仲良くなりました。その流れでパオロ・チャバッティ(ドゥカティ・コルセ:スポーティングディレクター)さんとも親しくなりずっと親交がありました。2023年の夏頃、パオロさんに我々の想い、ドゥカティで全日本と鈴鹿8耐で勝ちたい、と言うことを伝えました」

当初はサテライトチームとしてキット車・キットパーツを購入して参戦しようと考えていたという加賀山。しかしその後数ヶ月音沙汰がなく半ば諦めかけていたところMotoGP日本グランプリもてぎで大きく事態が動く。

ファクトリーマシンはドゥカティからの提案

「その間にパオロさんは加賀山就臣と言う人間を全部調べてくれていました。2010年、日本に戻り自らのチームを立ち上げて参戦したこと、鈴鹿8耐でケビン・シュワンツや現役Moto2ライダーを起用したり、様々なイベントをやっていたこと、など全部知っていました」

「(もてぎの)その場にはジジ・ダッリーニャ(MotoGPドゥカティ ゼネラルマネージャー)もいて“どうせやるなら一番を目指せ。我々のWSBKチャンピオンマシンを貸すぞ”と言ってくれました。その瞬間は“はぁ、何言ってるんだ?”と理解できませんでしたが(笑)まさに天にも昇る心地でした」

今回のファクトリーマシンはドゥカティからの提案であった。普通で考えればまずあり得ないこと。

機密情報の宝庫であるファクトリーマシンをしかも海外に持ち出すことは過去には無かった。それだけの信頼に値すると加賀山は評価されたのだ。

加賀山就臣の全てを調べた

加賀山は「今までの恩返しがしたい」との思いで世界から日本に戻ってきて自らのチームを立ち上げた。「勝ちたい」、それが一番の目的であるが、もうひとつ「日本のバイクレースを盛り上げたい」と常に考えている。

鈴鹿8耐にレジェンドライダー:ケビン・シュワンツを招いて3位表彰台に上がる、芳賀紀行や清成龍一、現役Moto2ライダー:ドミニク・エガーターを招いて参戦など常に話題を振りまいてきた。

その活動はレースだけに留まらない。プロ野球球場にレーシングマシンで登場、レーシングスーツで始球式をしたり、横浜元町をレーシングマシンでパレードしたり、最近では箱根ターンパイクを閉鎖してレーシングマシンを走らせたり、とバイクレースを一般の人たちに身近に感じてもらえる仕掛けをたくさん行ってきた。その加賀山の発想力・行動力がドゥカティ本体の心を動かし、門外不出と言われているファクトリーマシン提供に繋がった。

 

不安はありません。水野涼の力強いひとこと

ライダーは水野涼。ずっとホンダ一筋であった。移籍を決めた理由は加賀山と一緒、「勝ちたいから」

「2023年9月のオートポリスで初めて加賀山さんに“勝てる環境はないですか?“と相談しました。今、勝てる環境にあるのはヨシムラだと思ったのです。次に加賀山さんから連絡があったのは最終戦鈴鹿のレース2スタート20分くらい前でした。加賀山さんから電話がかかって来るなんて滅多にないから”怒られるのかなぁ、、嫌だなぁ、、“と思いながらチームスイートに行くと、今回のプロジェクトで一緒にやらないか、と話がありました。それがモチベーションの一つになり最終戦で2連勝を挙げることができました」

「不安はありません。勝たなくてはいけないマシン・メーカー、チーム体制と言うプレッシャーを背負いますが、自分の役割は勝つこと。それを果たしたいと思います。そしてそのためのマシン・体制を用意してくれた全ての人たちに感謝しています」

水野はイギリス選手権参戦で大きな自信をつけて戻ってきた。勝ちへの拘りは人一倍強い。2023年、アグレッシブな走りは水野の成長を感じさせたし多くのファンを魅了した。(水野涼の2023年の記事はこちら

“不安はありません”と言う言葉は今の水野を表していると感じた。

前代未聞、大使館公邸での発表会

もう一つ、異例なことがあった。それはイタリア大使館公邸で発表会を開いたことだ。このアイディアは加賀山が思いついた。最初は飛び込みで申し入れをしたそうである。その話を聞いたドゥカティ・ジャパンやイタリア本国がバックアップ、開催実施に漕ぎ着けた。

「イタリアをはじめとするヨーロッパではこういう公の場所でオートバイやレースの発表会を快く受け入れています。日本では考えられない。文化の違いはもちろんありますが日本のモータースポーツの認知度がまだまだ低い。イタリアで我々のやろうとしていることが認められたからここ(イタリア大使館)で発表できたことを広く発信したい。やればできると言うことを感じてほしいです。そしてバイクレースの社会的地位を少しでも上げて、野球やサッカーと同じくらい認知されるようにすることも目標としています」

日本で例えるなら国会議事堂や首相官邸で参戦発表会を開催するようなものだろうか。それをやってのけた加賀山の行動力と人間力に改めて驚かされた。

当日は在日イタリア大使館を代表してジャンルイジ・ベネデッティ駐日イタリア大使から「両国の友好関係を見事に象徴するこの大使館の公邸にて、DUCATI Team KAGAYAMAの発表会ができることを非常に嬉しく思っております」「世界チャンピオンを獲得したイタリアのDUCATIが日本のスーパーバイクと鈴鹿8耐に参加すると聞いて非常に興奮しています」とお祝いと期待に溢れた挨拶があった。

続いてドゥカティジャパンのマッツ・リンドストレーム代表取締役社長からの挨拶。

「ドゥカティにとってレースはDNA、アイデンティティです。MotoGPとWSBKで2年チャンピオンを獲ったパニガーレV4Rが日本を駆ける機会を作っていただきありがとうございます」「私の話よりもマシンを観たいですよね。それではみんなで移動しましょう」と早々に切り上げ、ファクトリーマシン:パニガーレV4Rのアンヴェールとなった。

鎖国した日本を開国させる

 世界チャンピオンのファクトリーマシンを日本に持ち込む。誰もが不可能だと思うことをやってのけた加賀山就臣。勝利の先に見据えているのは日本のバイクレースの盛り上がり。

「イタリアから来た黒船が日本国内を制覇する、それはマズイって思って欲しいのです。日本国内にもっと目を向けて本気(ワークス活動)を出してほしい。メーカーが本腰を入れれば絶対にまたバイクレースは盛り上がります」

「鎖国した日本を開国させる」加賀山の覚悟と情熱をぜひサーキットで見てほしい。全日本ロードレースは3月9日〜10日、鈴鹿サーキットで開幕する。

Photo & text:Toshiyuki KOMAI