苦しみ抜いた末に見出した活路。今年の水野涼は速い。

2019/08/23

全日本ロードレース第2戦鈴鹿の第2レース、水野涼(MuSASHi RT HARC-PRO. Honda)は終盤に野左根航汰(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)の後ろに食らいつき、あと一歩のところで表彰台に届かなかった。続く第3戦SUGOでも2戦連続で表彰台争いを展開して4位入賞。今年の水野は速い・強い。何が水野を変えたのか。鈴鹿8耐後の全日本ロードレース第5戦もてぎで聞いた。

水野は高橋巧(Team HRC)と同じワークスマシンを鈴鹿8耐から手に入れた。全日本ロードレースで2分5秒台に入れるのがやっとだったが鈴鹿8耐事前テストでは耐久仕様のマシンでいきなり6秒2に入れる。「ハードで闘うレースですのでマシンが変わったことは大きいです」と言うが本当にマシンが変わっただけでここまで速くなるのだろうか。

水野は昨年一年間苦しんだ。今までのレースキャリアに挫折はなく、名門ハルクプロに加入してからもトントン拍子でステップアップしてきた。ある意味それが仇となり、J-GP2クラスチャンピオンの肩書きを引っ提げてJSB1000クラスにステップアップしたが「自分だったら行けるんじゃないか、と舐めていました」

2018年シーズンは4位が最高位、10位近辺をうろうろしていた。「一ケタに届くか届かないかの順位のレースではモチベーションも上がらず、どうやって頑張ったら良いのかがわからなくてもがいていました」

1000ccのビッグパワーを操る瞬発力も持続力も備わっていなかった水野がまず取り組んだのが体力作り。愚直なまでに身体を追い込んだ。しかしそう簡単に身体が出来上がるわけがなく効果が出始めたのは今シーズンに入ってから。

レースの走り方も見直した。最初から最後まで100の力で走るのではなく80〜90の力で100の力と同じタイムを出す事を考えながら走っていると言う。「昨年はレース後半に腕上がりしていましたが今年は腕も上がりません。レースディスタンスの中で、力の使い方、配分を考えられるようになりました」

そしてメンタル面。「勝ちに対する意識が低かったと思います」と言う。今は「どうやったら勝てるか」を常に考えている。「勝ちへの意識」が高い高橋巧や清成と話していくうちに意識が変わっていった。結果だけを追い求めたために空回りしていたが「今のパッケージの中で自分が今できることを100%やるという考え方で臨んでみたら少しずつですが改善されて結果にも現れるようになりました」

ワークスマシンを手に入れたというハード面の貢献が大きいのは事実だが、今年の水野の強さはそれだけではない。昨年から積んできたフィジカルトレーニングの成果が現れてきたこと、メンタル面、走り方を変えたこと、それらにより表彰台争いに絡めるようになり、以前のような高いモチベーションを持てるようになったこと、これらが相乗効果としてプラスに作用している。

全日本ロードレース第5戦もてぎ、水野は最後まで王者・中須賀を追い上げた。しかしあと一歩及ばず2位。JSB1000クラスに上がって初の表彰台。「プッシュしたつもりでしたがやはり中須賀選手は役者が1枚も2枚も上手でした。最後に離されてしまったのは今の自分の実力だと思います。」謙虚に負けを認めるがワークスライダーの中須賀、高橋の間に割って入ってバトルができるまで強くなった水野。中須賀も「若くて元気のあるライダーが出てきてかき回すことは歓迎」と水野や野佐根の成長に期待を寄せている。

昨年一年間の苦しみの中で自ら考え、自らの意志で動いた結果が今年の水野の成長に繋がっている。今後の水野の走りに視線が注がれる。

photo & text : Toshiyuki KOMAI