帰ってきた篠崎佐助② 満身創痍のダブルウィン

2021/06/23

 

2021年、7年ぶりに全日本ロードレースへ参戦する篠崎佐助(Team TECH2 & YSS)。篠崎佐助を追いかけるRacing Heroesのシリーズ第2弾。前戦SUGO大会でポールポジションを獲得するが、濃霧のためレースがキャンセルとなった。優勝ポイントの半分12.5を加算してランキングトップで筑波大会に臨んだ。

非公式ながらコースレコード更新、だが7年ぶりの転倒を喫する

開幕戦もてぎでは「コースレコードを狙いますよ!」と意気込んでいたがマシンにマイナートラブルが発生してわずかに届かず。篠崎のホームコースとも言えるここ筑波は中沢寿寛がマークした1分5秒227秒がレコード。篠崎は金曜日のART合同走行で1分5秒202をマークして更新した。しかし、ART合同走行のタイムは公式記録として認定されないので「非公式ながら」という前置きがついてしまう。午後に行われた2本目の走行。「4秒台を狙いたい」と言って出ていった。しかし、アジアコーナーでハイサイドの転倒を喫してしまう。2014年の岡山以来7年ぶりの転倒。ピットに戻ってきた直後は「いやぁ、、7年ぶりの転倒、やっちゃいましたよ」と言っていた。

ダブルポールポジション獲得。

しかし夜になると左肩と背中の痛みが酷くなったと言う。翌朝の篠崎、声がかすれていた。朝8時からの公式予選は痛みを堪えての出走。前日金曜日は晴れて暑かったが、土曜日は朝から雨。転倒で若干問題が出ていたハンドル廻りはチームはパーツを交換して修復を終えていた。予選タイムは1分10秒143、ポールポジションを獲得。セカンドタイムもトップでレース2のポールポジションも獲得(筑波大会は2レース制)

「JP250で雨の筑波を走ったのは初めてだったので最初は様子見でした。速い人のグループに入れなかったので自分でペースを作っていきました。タイムの上がり方は遅かったのですが、これがギリギリ、と言う訳ではありません。

昨日の転倒もありましたし、レース1はあまり無理しないで行こうと思います。」

当日の午後に行われた決勝レース1。ポールポジションから飛び出した篠崎はオープニングラップを制する。序盤から飛ばして先行逃げ切り型のレース展開を考えていた。予選後に「2番手(田中敬秀)がメチャクチャ速いので楽に勝てるとは思ってない」とコメントしていたが、その田中が序盤に迫ってくる。篠崎のマシンにはドライブレコーダーが装着されていて普段はモニターで後ろを確認している。しかしこのレースでは前方が映っていた。後ろを振り向いたら田中がすぐ背後にいたので驚いたと言う。

しかし慌てず練習走行のつもりで安全に少しずつ差を広げれば良い、と考えを切り替えて走行を続ける。田中が2位狙いに変えたこともあり次第にその差は広がり中盤以降は完全に独走体制。レース終盤にレコードラインを譲らないバックマーカーと絡んで差が縮まる場面もあったが2秒587の差をつけてポール・トゥ・ウィンを飾る。

「スタートを決めてペースを上げれば逃げ切れる、と思っていました。しかし、2周目に後ろを振り返ったら田中さんがいてビックリしました。でも安全を期して少しずつ差を広げていこう、と作戦を切り替えました。ここで転んだら昨日のケガのこともあるし、ランキング的にも不利になるので。途中から田中さんが2位狙いになったので楽になりました。バイクに乗っているときは気にならないのですがおそらく身体を庇って何処かに変なチカラが入っていると思います。でも優勝できて良かったです」と安堵の表情を覗かせた。

チームには、痛いと言わない

予選を終えてピットへ戻ってきた篠崎。レインウェアを自分一人では脱げない、スタッフに手伝ってもらって初めて脱げた。しかしチームの中では痛いとは言わない。本人は「これくらいなら大丈夫」「欠場して連勝記録を途切れさせたくない」と思っているのだろう。しかし、「キチンと状態を伝えるのもライダーの役目」とチーム代表藤原健二氏の奥様:幸子さんは言う。「ケガの状態を正確に把握していないと走らせて良いのか悪いのか判断を誤る。時には欠場する勇気も必要」

決勝レース2は辛勝

酷かった雨は日曜日の早朝には上がり、ドライコンディションで決勝レース2が行われた。再びホールショットを奪う。いつも通り2位以下との差を広げて独走を築くかと思われた。しかし、5周目に2番手の田中がすぐ背後まで迫る。「序盤のラップタイムを見たら1分5秒9。愕然としました。これではチギるのは難しいと思いました」。背後から田中がコースレコードを更新する勢いで迫る。7周目にはトップを奪われるが最終コーナーでコンパクトなラインから田中をパスする。しかし今度は篠崎の背後にいた中村龍之介に1コーナーでかわされて2番手。ここでも冷静に中村の背後につけるとバックストレートでスリップから抜けだし最終コーナーで再びトップを奪う。

篠崎はここで走り方を変える。できるだけ深いブレーキングで後ろが詰まったところで一気に加速して立ち上がる。立ち上がり加速の鋭さはTECH2マシンが成せる技。最終ラップの第1コーナーが勝負どころと決め、仕掛けてくるライダーをひとりに絞りたかった。1コーナーを抑えきった篠崎は筑波でダブルウィンを飾った。篠崎にしては珍しい辛勝であった。

「1分5秒前半は出ていると思ったら5秒9。3周目には後ろにビタビタにつかれて逃げるレースはできないと思いました。でも一度抜かれて後ろから見ていたら自分のバイクの方が速そうだったのでもう一度前に出ました。あとは後ろのエンジン音を聞いて距離感を感じながら合わせて走りました。1秒2秒の差をつけて勝ちたかったのですが何とか逃げ切った、というレースでした。」

「佐助自身のベースとなる流れをキチンとおさえて、今の状態、その後どうする、を把握していたからの結果だと思います。今回は身体の痛みが酷かったと思います。レース2であのまま引き離せるかと思ったけどできなかった、他のライダーはスリップを使って詰めてきますが佐助はずっと先頭を走っていたので厳しかったと思います。それでも自分の良いところを活かして勝ったレースですので良かったと思います」と藤原監督。

 

身体中痛いのに明るく振る舞うのは、廻りを心配させない篠崎の優しさ。満身創痍の状態でもキッチリ勝つのは篠崎の強さ。そこが篠崎の魅力のひとつだろう。

そして、篠崎を陰となり日向となり献身的に支えているのが妻の美穂子さんだ。”佐助の一番のファン”だと豪語する。毎戦応援に駆けつけるが邪魔にならないように、とピットにはあまり顔を出さない。チームには痛いとは言わない篠崎も美穂子さんには「痛い痛い」と言っていたそうだ。心の拠り所になっている。

次戦鈴鹿は1ヶ月後。ケガの具合が心配だが再び素晴らしいバトルを魅せて欲しい。

Photo & text : Toshiyuki KOMAI