2022全日本ロード第2戦 鈴鹿 決勝レース2

2022/04/24

近年稀に見る名勝負。四輪ファンにも“これぞ二輪レース!”を魅せた中須賀克行と渡辺一樹のクリーンファイト!

サーキット中がこの二人のバトルを固唾を飲んで見守った。ゴール後には割れんばかりの大歓声。中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)と渡辺一樹(YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN)のクリーンファイト。二輪レースここにあり!をマジマジと見せつけた。3位に岡本裕生(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)。3戦連続の表彰台獲得した。

昨日までの好天から一転、朝から雨が降る生憎の天候となった決勝日。ウェット宣言が出されて2周減算の14周となったレース2。12時40分にスタート!ホールショットは渡辺が奪う。亀井、中須賀、岩田悟(Team ATJ)、濱原颯道(Honda Dream RT桜井ホンダ)の順に1コーナーに進入する。岡本はスタートで真横を向いてしまい大きくイン側へ逸れる。真後ろにいた榎戸育寛(SDG Motor Sports RT HARC-PRO.)は岡本を避けるためにピットウォールギリギリまで寄らざるを得なかった。これで岡本と榎戸は大きく順位を落とす。

スプーンの進入で中須賀が亀井を捉えて2番手に浮上する。オープニングラップは渡辺が制し、中須賀、亀井、岩田、南本宗一郎(AKENO SPEED・YAMAHA)、柳川明(will-raiseracingRS-ITOH)、濱原、作本輝介(Astemo Honda Dream SI Racing)、國峰啄磨(TOHO Racing)、岡本の上位10台。榎戸は11番手で通過。

「前戦もてぎの雨のレースの課題をチームが仕上げてくれたことに感謝したい」と言う渡辺は雨の走りに好感触を掴んでいた。加賀山監督と「今日のレースは序盤から自分のペースで行こう」と決めた。それほど自信があった。それを裏付けるようにオープニングラップで中須賀に0.949秒の差をつける。

中須賀も黙って先行させるはずもなく3周目には0.135秒差にまで詰める。しかしこの時の中須賀、余力を残してのペースアップではなく、渡辺に引っ張られる形で出した精一杯のタイムだったと言う。一度は差をつめたが6周目には再び0.674秒差に広がる。「(2位)キープ狙いも考えた」とにわかには信じられない言葉をレース後に聞いた。

するとここでセーフティーカー(SC)が入る。生形秀之(S-PULSE DREAM RACING・ITEC)がデグナー二つ目で転倒、ライダー救護のためにSCを投入した。これで渡辺が築いたマージンは振り出しに戻ってしまう。渡辺も中須賀もタイヤに熱を入れる挙動を繰り返す。SCのランプが消えると先頭の渡辺がリスタートまでの流れをコントロールできる。緩急をつけた走りで自らのタイミングを図り残り5周でリスタートが切られる。

SCの低速走行でタイヤが冷えてしまうのでリスタート後の1周目が非常にリスクが高くなる。しかし渡辺はアクセルを開ける。「SC後は熱が入るまでは慎重に」が信条の中須賀も続く。「タイヤに熱を入れる動作を繰り返していたので温まりが遅いのかも」と思った中須賀はリスクを覚悟で開けていった。そしてリスタート後2周目の1コーナーで渡辺をパス、トップに立つと2分18秒347までペースを上げる。

「若干温まりにネガがあったので様子見をしていたのを中須賀選手はやっぱり見逃さないな」と渡辺。

しかしまだいける自信があった。SC前のタイムはどこまでいけるか確認しながらの走行、いっぱいいっぱいではなかった、中須賀が前に出てスパートをかけても反応できるだけのキャパが残っていた。

そして残り4周、後世まで語られるであろう名勝負が始まる。

中須賀にかわされコンマ5秒開いていた差がみるみると縮まる。中須賀も渡辺もコーナーの立ち上がりではリアが暴れる。だがそんなことお構いないしで二人はバトルを続ける。真っ白なウォータースクリーンで視界が悪い中、バックストレートでは290km/hものスピードでテール・トゥ・ノーズの超接近戦を展開する。

残り2周のスプーン一つ目、「ここで来るか?」と中須賀が驚いた場所で渡辺がインを刺す。

しかしクロスラインで中須賀が抜き返す。だがスプーン出口で今度は渡辺が中須賀のピタリと背後につけるとスリップから抜け出し、バックストレートで並走。130R進入で前に出る。その先の最終シケイン、渡辺はギリギリのところまでインを閉める。しかしなんと中須賀はさらにその内側を突いてきた。

その瞬間、場内からは悲鳴にも近い歓声が沸き起こる。

「元々中須賀選手はものすごくコンパクトに入ってくるので、中途半端な閉め方では入ってきちゃうと思ったので自分の中では目一杯閉めたのですが“これで入られたらどうすればいいんだ”と思いました」。

「今日の一樹選手の速さは痛いほどわかっていたのでスプーンで抜かれた後にすぐに抜き返しました。ですが抜き返されてしまい、やはり今日の一樹選手は強い。だけど自分はシケイン勝負に自信がありました」と中須賀。

迎えたファイナルラップ。渡辺はまだ諦めていない。中須賀の背後にピタリとつけてインを伺う。スプーン一つ目、渡辺はほんの僅かなミスをする。その影響でバックストレートでスリップに入れなかった。そのまま中須賀がチェッカー。開幕から4連勝を飾る。渡辺は悔しい2位。その差は僅か0.113秒だった。

この二人のクリーンで手に汗握るバトルに会場からは惜しみない拍手と歓声が贈られた。会場に詰めかけた多くの二輪ファンにはもちろん、四輪ファンにも二輪レースの真髄・凄さを魅せた。

全力で闘い抜いた中須賀はアドレナリンが大量に出たと言う。パルクフェルメでは近年見たことのない喜び方をしていた。そして激闘を終えた渡辺と抱き合い「ありがとう」と声をかける感動的なシーンが見られた。

負けた悔しさは何十倍、と言う渡辺も力と力の真っ向勝負には清々しさが残った。

 

スタートで真横を向きオープニングラップで10番手まで順位を下げた岡本、徐々に順位を上げて行き3位でフィニッシュした。「スタートで全てが決まってしまいました。序盤は自分より遅いペースの人たちと走っていたのでそこから上げられず、トップとバトルした3位ではなく何もできずに終わった感じですごく悔しいです。自分に腹が立ってイライラしながら走っていました。冷静さを欠いていたのも反省材料です」と悔しがる。

オープニングラップで11番手まで下がった榎戸が4位に入った。STマシンでJSBマシンを相手に戦っているのでタイヤやブレーキが厳しい。そこをアジャストしたり、別の走法を試したりして順位を上げて行った。「SCのおかげで前との差が一気に縮まり、ラップタイムの差もないのはわかっていたので、“これはチャンスだ”と思いました。問題が出たところを解消させるためにライディングをアジャストしてタイムアップすることができました。結果的にSC後の5ラップで3台抜いて4位に入れたのは良かったです」と手応えを感じていた。

5位にはこのウィーク、今ひとつ歯車が噛み合わなかった感のある濱原。決勝レース中もマイナートラブルが発生してペースを上げられず、SC明けにはさらにその症状が悪化したため我慢のレースを強いられた。

オープニングからずっと3番手を走行していた亀井。ソフトタイヤを選択したのが功を奏し、序盤で3番手に付けられた。さらに、SC明けのタイヤが冷えていた時でもペースを上げられた。しかし残り3周と言うところでエンジントラブルで無念のリタイアとなってしまった。「トップグループから一気に離されるのではなくじりじりとだったので、そこはポジティブに捉えています。追いつける場所、離される場所がよくわかったので、次に繋がるレースができたかなとは思いますけど、やっぱめちゃくちゃ悔しいです。」

優勝:中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)記者会見

「予報通り雨のレースになってしまったので、多少の不安を抱えながらのスタートでした。予想通り一樹選手のスピードがかなり速くて正直なところついていくのがやっとでした。SCが入る周に離されかけたのですが、SCに助けられました。SC明けは序盤でタイヤが温まる前に出る作戦を取ろうと思いました。前に出てからはブロックしながら残りの周回数を走りました。一樹選手は今回非常に速かったです。その中でしっかり自分も抑えきることができたので、勝ててほっとしてます。」

2位:渡辺一樹(YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN)記者会見

「また2位かという気持ちはあるのですが、やっとレースができたという感覚の方が強いです。中須賀選手に抜かれた後、もう一度トライできたのは自分の中で非常に大きな進歩だと思っています。開幕戦の雨のレースで非常に苦労した中で、チームがすごくいい車両を用意してくれました。木曜日の雨の走行ではトップタイムでしたし、その時点で雨のレースならチャンスがあるかもしれないと思いました。

ですがSC投入でリズム崩れてしまいました。ただこれもレースなので仕方ないですね。お客様に見て楽しいレースができたのかなと思います。次戦以降も、みんなが歓声を上げてもらえるようなレースをしたいと思います。」

3位:岡本裕生(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)記者会見

「スタートで大きなミスをしてしまい後方に下がってしまいました。自分の中の焦りからミスを繰り返してどんどん離されてしまいました。SCに助けられました。SC明けは6番手ぐらいにいて、抜くのに時間がかかりトップグループから離されてしまいました。タラレバになってしまいますけど、スタートがもう少し決まっていて、あのグループに加わっていればもっといいレースができていたなと思います。今回のミスは大きな失敗なので、次はもっともっと良いレースができるように頑張ります。」

全日本ロードレース開幕戦 もてぎ 決勝レース2上位10位は以下の通り。

優勝:中須賀克行 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
2:渡辺一樹 YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN
3:岡本裕生 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
4:榎戸育寛 SDG Motor Sports RT HARC-PRO.
5:濱原颯道 Honda Dream RT桜井ホンダ
6:作本輝介 Astemo Honda Dream SI Racing
7:岩田悟 Team ATJ
8:日浦大治朗 Honda Dream RT桜井ホンダ
9:柳川明 KRP SANYOUKOUGYO RSITOH
10:南本 宗一郎 AKENO SPEED・YAMAHA

Photo & text:Toshiyuki KOMAI