ラスト2周、水野涼(SDG DUCATI Team KAGAYAMA)は泣きながら走っていた。そしてシリーズチャンピオンを決めた。加賀山就臣が『黒船来襲』と称しDUCATIと言う外国車、しかもワールドチャンピオンのマシンで日本に殴り込みをかけてから3年。様々なことが走馬灯のように巡ったと言う。
「心からおめでとうと伝えたい」そう口にしたのは中須賀克行だった。日本の最高峰JSB1000クラスに長年君臨し、数々の偉業を達成してきた絶対王者。その中須賀が、新たに誕生したチャンピオンに惜しみない賛辞を贈った。
長島が先行、水野が追う。雨の鈴鹿で始まった頂上決戦
土曜日の鈴鹿は雨。木曜日、金曜日のドライコンディションから一転し、午前中の公式予選では長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)がポールポジションを獲得した。
前戦岡山でJSB1000初優勝を飾った長島が、再びウェットで速さを見せた。2番手には高橋巧(Honda HRC Test team)、3番手に水野涼、4番手に中須賀克行。5番手には國井勇輝(SDG Team HARC-PRO. Honda)、浦本修充(AutoRace Ube Racing Team)は10番手に沈んだ。
14:25、14周で争われる決勝レース1がスタート。水野がホールショットを奪い、長島、高橋、國井、中須賀が続く。しかし1周目のスプーンカーブで長島が水野をパス。ポールシッターがトップに立った。
長島には勝算があった。「予選のペースで決勝を走れるなら、優勝も見えるかもしれないと思っていました」熱の入りが早いダンロップタイヤの特性を活かし、序盤から積極的にペースを上げてレースを引っ張ろうと考えていた。
だが、その後ろを走る水野には焦りがなかった。
「長島選手に抜かれましたが、スピードが全然違うという感じではありませんでした。後ろを見たら後続が離れていたのでまずは長島選手についていこうと思いました」そして3周目のバックストレートで長島を抜き返してトップに立つ。
「自分の方がペースがありそうだったので、早めに前に出てプッシュしました」そこから水野の独走が始まった。ウェットとは思えない2分15秒台のラップタイムを刻み、後続との差を広げていく。昨年のように無理を重ねるのではなく、自分のマシンと路面の状態を把握し、必要な速さを引き出していく。
水野はレース後、こう振り返った。「スタートしてからアドバンテージがあると感じたので、前に出てからは落ち着いてレースができました。本当に完璧だったと思います」
高橋巧を襲った、まさかのペナルティ
その水野を追う集団では、もう一つの戦いが繰り広げられていた。序盤、國井をかわして3番手に上がった高橋巧が猛然とペースを上げ、長島のすぐ背後まで迫っていた。
しかし5周目、信じられない裁定が下る。ジャンプスタートによるライドスルーペナルティ。スタート直前、ほんのわずかにマシンが動いてしまったという。
「動いた瞬間、やばいと思いました。ペナルティが出ないでくれと思って走っていたんですけど……」高橋はピットレーンを通過し、最後尾近くまで順位を落とした。
「長島選手を抜いて、水野選手が逃げる前に追いつきたかったです。でもライドスルーが出た時点で、俺のレースは終わったと思いました」それでも諦めずに追い上げを続け、終盤には2分15秒台を記録。トップ争いに加われる速さを持っていただけに、悔やまれるペナルティだった。
一方、金曜日のドライで強烈な速さを見せていた浦本修充は、序盤に130Rで転倒、リタイアとなった。
「鈴鹿8耐と同じサーキットなので、ウェットでもイメージを持っていたんですが、フィーリングがかなり違っていました。集団の中で行き場がなくなって、コースアウトしたところが思った以上に滑ってしまった」優勝争いを期待させる速さを見せていた浦本。しかし、雨の鈴鹿はまったく別の顔を見せた。
「ここまで悪くなるとは想像もしていませんでした。それは予選の走り出しで感じたので40分間を使ってアジャストしたのですが詰めきれませんでした。決勝レースになればなんとかなると思っていましたがフィーリングは変わらず、前の3台にはついていけないと思いました」但、明日のレース2に向けての対策はとっているようで朝フリーで試すという。
中須賀克行「楽しみながら走ることが一番の恩返し」
中須賀克行は苦しいレース序盤を過ごしていた。前戦岡山では雨の決勝で転倒リタイア。今回もウェットに対する不安を拭いきれないまま、4番グリッドからスタートした。
「岡山で転倒していたので、雨には結構ナーバスになっていました。予選でも思った以上にタイムを上げられず、不安な状態で決勝を迎えました」序盤は國井の後方で5番手を走行。先頭集団は2分16秒台前半のペースを刻む一方、中須賀は2分16秒台後半。
「正直、上位3台が逃げていくレースになると思っていました」しかし、ここから中須賀のレースが変わっていく。周回を重ねるごとに路面への対応が進み、徐々にリズムを取り戻していった。
「状況が毎周変わっていく中で、それに合わせられるようになった。路面のコンディションが自分に合ってきたのか、どんどんペースを上げることができました」6周目のシケイン進入で國井をパスし、3番手へ浮上。前方には長島がいた。
中須賀はその差を少しずつ縮めていく。長島も必死にペースを維持するが、終盤に入ると中須賀の速さが際立ち始めた。そして11周目、S字から逆バンクへと続くテクニカルな区間で中須賀が長島を攻略。ついに2番手へ浮上した。パスした後も中須賀はペースを緩めない。さらに長島との差を広げ、2位でチェッカーを受けた。
今シーズンは未勝利。本人にとって2位という結果は、決して満足できるものではないはずだが、「チャンピオンの芽が無くなった時点で背負うものが無くなりました。最終戦は心から楽しみながら走っています。もちろん勝利を諦めたわけではありません。今、自分ができることの最大限を尽くすことに変わりはありません。楽しんで乗っています。楽しむことが一番の恩返しやと思うから」
「自分がどれだけ楽しんで最後を終えられるか。それが一番大事になるかな」長年、勝つことを宿命として戦い続けてきた絶対王者が、最後に心から楽しみながら走っていることが嬉しい。
全クラスチャンピオン獲得した唯一のライダー:水野涼
J-GP3、J-GP2、そして最高峰JSB1000、この3つのカテゴリでチャンピオンを獲得したライダーは水野が初めてだと言う。
今シーズンはシリーズチャンピオンを獲ることを目標に戦ってきた。結果に一喜一憂するのではなく、常にレースで勝つために何が必要かを考え、週末を組み立ててきた。目先の勝負や予選のポールポジションに固執することがなくなり俯瞰できるようになった。変な焦りや苛立ちはなくなり、チームを心から信頼し、チームとライダーが一心同体となり今シーズンを戦ってきた。その集大成が今日、獲得したシリーズチャンピオンだ。しかも自らの優勝で決めた。最高の結果だ。パルクフェルメに戻り、チームの仲間たちの顔を見た瞬間、再び涙があふれた。
「加賀山さんが先に泣いていたんです。それを見たら、僕も泣いちゃいました」3年間、ともに挑戦を続けてきた仲間たち。そして、ようやくつかんだ日本最高峰のタイトル。その喜びが、一気にこみ上げてきたのだろう。
今シーズンの水野は強かった。ここまで9戦中8勝と圧倒的だ。
中須賀は「涼がしっかり勝ってチャンピオンを決めたことに対しては全日本にふさわしい、強いチャンピオン」と評した。中須賀は、決して簡単にライバルを認めるライダーではない。だからこそ、この言葉には重みがある。
長島も、水野の走りを素直に称えた。「涼が勝ってチャンピオンを決めた。かっこいいな、その一言に尽きます」ポールポジションから優勝を狙ったが水野と中須賀の速さには届かなかった。「自分なりに全力は出しました。でも、あれ以上はなかった。あれ以上いったら、転ぶ未来しか見えなかったです」悔しさはある。それでも、やれることをやり切ったという清々しさもあった。
勝者も敗者も、それぞれが自分の限界に挑んだ14周だった。そして、彼らの戦いはまだ終わっていない。明日のレース2。勢揃いしたレベルの高いライダーたちがどんなバトルを魅せてくれるのか。そして中須賀克行にとって、現役最後の一戦が待っている。最後まで、目を離すわけにはいかない。
全日本ロードレース第8戦 全日本ロードレース選手権シリーズ 第7戦 第58回 MFJグランプリ スーパーバイクレース in 鈴鹿 決勝レース1 TOP10は以下の通り
優勝:#88 水野 涼 SDG DUCATI Team KAGAYAMA
2位:#1 中須賀 克行 YAMAHA FACTORY RACING TEAM
3位:#30 長島 哲太 DUNLOP Racing Team with YAHAGI
4位:#92 國井勇輝 SDG Team HARC-PRO. Honda
5位:#12 日浦 大治朗 Team SAKURAI HONDA
6位:#6 岩田 悟 #Team ATJ
7:#14 渥美 心 Yoshimura SERT Motul
8位:#6 岩田 悟 #Team ATJ
9位:#30 高橋 巧 Honda HRC Test team
10位:#35 MCPHEE John F.C.C. TSR Honda France
Photo & text:Toshiyuki KOMAI


































