一夜明けた岡山国際サーキットは雨。前日のドライで築かれた序列は一度リセットされた。JSB1000の公式予選は35分間のQ1で上位10台を選出し、15分間のQ2で10番グリッドまでを決めるノックアウト方式。
最初に波乱に見舞われたのは水野だった。
Q1の4周目、第1ヘアピン進入で転倒。それでも転倒前に記録していた1分44秒702によって2番手でQ2進出を決めた。Q1トップは1分44秒499を記録した中須賀。長島哲太が3番手、國井勇輝が4番手、野左根が5番手で続いた。
「直立の状態でフロントから切れ込みました」
水野にとってウェットはほぼ“ぶっつけ本番”。事前テストでは雨が降らなかった。そこで昨年のデータをベースにしたセットアップとタイヤ選択でQ1に臨んだが転倒。そこでQ2では前後とも柔らか目のタイヤへ変更する。
フロントのフィーリングが改善した一方でリアの腰砕け感が強く7周目の1コーナーでリアからハイサイド気味に転倒を喫してしまう。それでも6周目に記録した1分44秒037で3番グリッドを確保した。水野が2度も転倒するのは珍しい。だが必要以上にネガティブになっているわけではない。
Q1はフロントから、Q2はリアから。二つの転倒を、水野はタイヤ選択の違いとして整理していた。明日も雨だったらフロント:ミディアム、リア:ハードのパッケージにすれば良い。2度の転倒は予定外だった。だがなぜ転んだのかを整理し、次に何をするべきかを考える。
そこにも今季の水野らしさがあった。予選後のピットで「それより転倒を2回しちゃったことがショックでした」。。だがその表情は明るかった。
一方、ポールポジションを奪った野左根も、Q1では苦しんでいた。事前テストのウェットで2度転倒。そのイメージが残り、「自分のリミッターが効いちゃいました」と話す。Q1では2、3周ごとにピットへ戻り、セット変更を繰り返した。
「正直(Q2進出の)上位10台に入れれば良いと思っていました」というほど手応えはなかった。ところがQ1とQ2のインターバルで施したセット変更が状況を一変させる。作業に時間を要し、約3分遅れてコースイン。だが、アウトラップの1コーナーを曲がった瞬間に「あ、これは全然違う!」マシンから伝わってくる感触が、それまでとは明らかに違った。
3周目に1分44秒567。5周目には1分44秒116。そして6周目、ついに1分43秒388を叩き出す。誰もそのタイムを上回ることはできなかった。野左根航汰、今シーズン初のポールポジション。Q1ではポールなど「1%も思っていなかった」というライダーが、わずかな時間で答えを見つけた。
中須賀も事前テストでの転倒が頭に残っていた。「攻めてはいるんだけど、タイムに結びつかない。どこかに転倒が過ぎるのでしょうね」攻めようと踏み込めばホイールスピンする。転倒すれば決勝への流れまで失いかねない。
「そのリスクを考えると最後の一線を越えることができませんでした」
中須賀らしからぬ言葉だが雨の岡山はいつ転倒するかわからないリスクを抱えていると言う。「今日は今日、明日は明日、と割り切ることにしました」とコメント。
なぜこれほど多くのライダーが、岡山のウェットで攻め切れないのか。水野の言葉が、その難しさを物語っている。「同じ走り方をするんだけど突然転ぶ。前の周に予兆は全然ありません」野左根も同じようなコメントをしている。「データを見ると全く同じ。同じブレーキング。同じライン。同じようにマシンを扱っているはずなのに、突然グリップを失うのです」水野のQ2での転倒も、本人にはそんな感覚だったという。何か大きなミスをしたわけではない。
その難しいコンディションの中、2番グリッドを獲得したのが國井だった。前日のドライでは「フィーリング、手応えがあまりありませんでした」というが、「最後にタイムを上げた際につかんだ走りの感覚を今日のウェットでも活かしたらタイムにつながりました」
滑りやすい岡山では、より丁寧にマシンを扱う必要がある。その中で前日に見つけた自分の走りを意識することでタイムを上げることができた。前戦もてぎで「走りながら感じたことを実践するとタイムに繋がった」ポジティブな感覚を岡山でも感じているようだ。
攻めなければタイムは出ない。しかし、ほんのわずかに限界を越えれば転倒する。野左根も、中須賀も、水野もその怖さを知っている。その中で野左根は「針の穴に糸を通す」ような難しい状況で走る場所を見つけた。だからこそのポールポジションだった。
決勝は野左根、國井、水野がフロントロー。長島が4番手、中須賀が5番手からスタートする。2位以上なら自力でシリーズチャンピオンを決められる水野。ここまで好調だった男が今日は2度転んだ。しかし落ち込むわけでも責めるわけでもなく冷静に次の答えを見ている。
俯瞰できるとはこう言うことか。転倒しても自分を見失わない。
王座に王手をかけた水野が、明日どんな走りを見せるのか。そしてポールの野左根、5番手から水野の勢いを止めにいく中須賀。岡山の雨が作った予選の序列。だが明日の天候が変われば、その序列は再び意味を失うかもしれない。岡山の決勝は、さらに読めなくなった。
Photo & text:Toshiyuki KOMAI

























