全日本ロードレースのゼッケン制度変更

2021/05/12

みなさん既にご存知のことと思うが2021年シーズンからゼッケン番号制度が変わった。

昨年までは各ライダーが自分の希望するゼッケンを登録できたが今シーズンからは前年度のランキング順のゼッケン指定となる。ランキング1位から10位までは「赤地に白文字のナンバープレートカラー」、いわゆる「赤ゼッケン」である。11位以降は「各クラス指定されたナンバープレートカラー」。

昨年12月、MFJからゼッケン番号制度変更に関するリリースが出された。ライダー、チームはすぐに反応した。全日本ロードレースの選手会が中心となってアンケート調査を急遽実施。ARTの掲示板に各自の意見を掲載することになった。結果は79%が反対、21%が賛成(どちらでも無い、無回答、は反対を表明していないので賛成としてカウント)だった。ファンの間にも動揺が広がり、一時「#希望ゼッケン廃止に反対します」というハッシュタグをつけてSNSで話題となった。

ライダーの主な反対理由は以下の通り。

「ゼッケンナンバーにはチームやライダーの想いが詰まっている」
「パーソナルゼッケンはライダーやチームにゆかりのあるナンバーを記していて“顔”である」
「パーソナルナンバーを敢えて使ったファン誘致、ビジネス化が世界で当たり前になっている」
「ゼッケンがチームやライダーがセルフプロモーションできる場所」
「既存のファンにとってわかりにくくなる」

パーソナルナンバーの先駆けは、バリー・シーンだとされている。1976年、1977年と500ccタイトルを獲得して “1”をつける権利を得たが、ゼッケン「7」をつけた。

パーソナルナンバーは今やアイコンとなっている。46=バレンティーノ・ロッシ、93=マルク・マルケス、34=ケビン・シュワンツなど。。全日本ロードレースでも、加賀山就臣=「71」、中須賀克行=「21」、関口太郎=「44」、柳川明=「87」などゼッケン番号ですぐにライダーの顔が思い浮かぶほどゼッケンとライダーの関係は親密だ。

MFJは希望ゼッケン制度廃止の理由を「オートバイのレースを知らない新規ファン獲得の一助に、スポーツとして、誰が速いライダーなのかをわかりやすく訴求し、主役であるライダーにスポットが当たるように、メディアとWEB放送を中心にSNS連携を含めて発信強化を図る」としている。今回の意図を聞いてみた。

MFJは現状の全日本ロードレースに非常に強い危機感を覚えている。打開策のひとつが既存ファンに“新規ファン”を加えた観客動員数の増員。

興味を持ってくれる人を増やすために何をすれば良いのか。「シンプルにわかりやすく」が必要と考えた。勉強しなくてはわからないこととは極力無くす。

野球、サッカー、ラグビーのファンは全員専門書を読む人たちか、と問えば違う。にわかファンが多くいる。バイクレースでも「にわかバイクレースファン」を作らなければこの業界は衰退の一途を辿る、と言う。

にわかラグビーファンの中で、東芝府中の選手のことを知らない人は多いだろう。「日本代表チーム」だから覚えるし応援する。そしてファンのほとんどは「選手と言う個人」を応援する。その時に必要な要素は「名前」「顔」「スキル」。ラグビーでは日本代表チームに特化した番組を長い期間放映し、顔・名前・スキルを明らかにしたことでファンが増えた。

「スキル」を現すひとつの手段として前年度ランキングのゼッケン制度を取り入れた。番号の若いライダーは前年度ランキング上位=速いライダー、とわかりやすくする。ゼッケンの若い人たちの先頭集団に大きいゼッケンのライダーが混じっていたら「誰だ?このライダーは?」と興味を引く。そこからライダーへの興味関心が始まっても良い。

F1、MotoGPは放映でライダーの顔を十分すぎるくらい放映している。さらにマルク・マルケスやバレンティーノ・ロッシなどMotoGPライダーのSNSは走行シーンの写真より自分の顔を前面に出している投稿が多い。つまり顔を売っている。全日本ロードレースはライダーの顔が写る時間は少ない。名前と顔の認識ができない、スキルレベルもわからない、では新しい人には伝わらない。

今年から「Grooview」というサーキット場内映像配信アプリを始めた。マルチチャンネルで場内実況放送、タイミングモニター、ピットポート、などを配信する。ライダーインタビューやピットレポートなどでライダーを多く露出させて顔と名前を一致させる施策を導入している。

以上がMFJに取材した際に聞いた内容である。鈴木哲夫MFJ会長は言わずとしれた元・株式会社ホンダ・レーシング(HRC)の社長で歯に衣着せない語りは多くの人の心を掴んでいる。

MFJは各ステークホルダーが集まった合議制の場所・事務局。レギュレーション発行責任があるのでゼッケン制度について発表をしたが、MFJ単独で決めたわけではない。バイク4メーカー、公認サーキット、各地区のロードレース委員会、外部の学識経験者から成る会議で多数決により決定した。但、事前にエントラントへの通達なしに発表したことに対しては「進め方に配慮が足りなかったのは事実」と認めている。

日本ロードレースの現状に危機感を覚え、そのために改革を行う。この考えに異論を唱えるチーム・ライダー・ファンはいないだろう。但、MFJの考えの真意がエントラントやライダーにキチンと伝わっていないのではないか、と思う。紙切れ1枚の発表ではなく、もっとお互いにコミュニケーションを取ること誤解を生まないことに繋がるのではないだろうか。

賛否両論ある希望ゼッケン廃止だが今シーズンはこれでスタートした。既存ファンからすると不満を抱くかもしれない。だが新しく観に来た方がレースファンになってくれることを期待したい。

※鈴木会長から「ぜひお客さんの意見も聞いて下さい」と言われたのだが、開幕戦、第2戦鈴鹿、共に観客席における取材禁止であったためお客様の声を聞くことはできなかった。

そこでRacing Heroesをご覧のみなさまに「ゼッケン制度」についてご意見がありましたらお伺いしたいと思います。ご意見のある方は「info@racingheroes.jp」までお寄せ下さい。

photo & text : Toshiyuki KOMAI